会社の仕事をそっちのけで、業務時間中にも組合活動を行う社員に対して、会社側(使用者側)は、どのように対応すればよいのでしょうか。
労働組合は、労働組合法(労組法)によって守られており、組合を敵視する発言、行動は、不当労働行為として違法となる危険があるものの、いかなる場合でも懲戒処分を下してはならないのでしょうか。
組合活動を行う労働組合の権利と、業務を遂行すべき会社側(使用者側)の業務命令権とが衝突するとき、特に慎重な対応が必要となります。
今回は、業務時間中も、ビラ貼り、ビラ撒き、組合集会などの組合活動を行う社員に対して、会社側(使用者側)が懲戒処分を下す場合の注意点について、弁護士が解説します。
「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ
職務専念義務とは?
「職務専念義務」とは、会社側(使用者側)の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行することに専念する義務のことです。
雇用されている社員(従業員)は、業務時間として定められた時間中は、「職務専念義務」を行っており、会社の業務以外の私的な行為を行ってはいけません。
就業時間中に、物理的に、組合活動その他のプライベートの活動に従事することはもちろん、精神的にも、業務に集中しなければならないとされています。
この点について、組合員であることを示したリボンを着用して労働することが、職務専念義務に違反し、組合員の就労を拒否することができるか、賃金の支払を拒否することが可能かが、問題となったケースでの裁判例の判断は、分かれています。
会社の施設を利用させる必要はない
労働組合の活動と会社側(使用者側)の権限とが定職したときに、使用者が、一定の範囲内で組合活動による会社に対する侵害を受忍しなければならない義務を「受忍義務」といいます。
しかし、最高裁判例(国鉄札幌運転区事件・最高裁昭和54年10月30日判決)は、次の通り述べて、受忍義務を否定しています。
国鉄札幌運転区事件
労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであることは既に述べたところから明らかであつて、利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。
労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であって定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないものというべきであるから、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで叙上のような企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容されるところであるということはできない。
つまり、労働組合といえども、会社側(使用者側)の許諾なく、労使合意もない状態では、会社の管理する施設を、組合活動のために利用することはできません。
会社は、所有、管理する施設の管理権限・利用権限をもっており、労働者に対して、許諾された目的以外に使用しないよう命じることができ、これに違反した労働者に対しては、企業秩序違反として懲戒処分を下すことができます。
裏返していうと、労働組合側からすれば、会社の許諾を受けずに、会社の施設を利用して行う組合活動は、「正当な組合活動」とはいえず、労働組合法(労組法)によっても保護されません。
ビラ貼りのケース
労働組合の行うビラ貼り行為は、会社の壁や掲示板など、会社の所有・管理する施設を利用して行われるものであって、美観を損なうなど、会社側(使用者側)にとって不利益があります。
ビラ貼付には、単に労働組合の考え方をアピールするとうい以外に、会社側(使用者側)に対する威圧、組合員の指揮の昂揚など、多くの目的があります。
しかし、会社に直接の影響を及ぼし、施設管理権と抵触するビラ貼りの組合活動は、原則として、会社側の許可がない限り、正当な組合活動とはいえません。
したがって、会社の許可を得ずに勝手に行うビラ貼りの組合活動に対しては、懲戒処分を下すことができます。
ビラ配布のケース
ビラ貼り行為に対して、ビラ配布行為は、会社の敷地内で行われても、会社の所有・管理する施設自体に不利益があるわけではありません。
ビラ配布の組合活動は、表現の自由、団結権の保障によって、ビラ貼り行為よりも、労働組合への規制が緩やかにならざるを得ません。
ただし、ビラ配布の目的や内容に照らして、実質的に企業秩序を乱すおそれがある場合には、懲戒事由に該当し、懲戒処分を下すことが可能な場合があります。
組合集会のケース
労働組合から、組合集会のために、会社の食堂、会議室などの施設を利用したいとの要望があった場合も、会社側(使用者側)としては、拒否することができます。
会社の許諾なく、会社の施設を利用して組合集会を行うことは、正当な労働組合活動ではありません。
ただし、そもそも本来は、社員が自由に利用することができる施設である場合、「労働組合の用途だから」という理由だけで拒否することが、不利益取扱、支配介入の不当労働行為にあたるおそれがあります。
その他の組合活動のケース
その他の組合活動についても、業務時間中に行われる場合には、会社側の業務命令権や、職務専念義務と抵触することとなります。
この場合に、どの程度の組合活動が、正当な組合活動として保護されるのか、言い換えると、どの程度の組合活動に対しては、懲戒処分を下してもよいのかは、次のような事情を考慮して判断されます。
- 組合活動の目的
- 組合活動の行われた場所
- 組合活動の態様・程度・方法
- 会社の業務に支障を生じるかどうか、また、その程度
- 従前、組合活動が許されてきたかどうかの慣行
正当でない組合活動への制裁は?
労働組合は、憲法において労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を保障されていますが、これら権利はあくまでも、「正当な組合活動」の範囲内で認められたものです。
そのため、行った組合活動が正当ではないものの場合には、労働組合あるいは労働者が、会社側(使用者側)との関係で民事上の責任を負うことはもちろんのこと、刑事上の責任を負うこともあります。
以下では、正当でない組合活動に対して、会社が検討すべき対抗措置について、弁護士が紹介していきます。
なお、当然ですが、正当な組合活動に対してこれらの措置を実施した場合には、不利益取扱、支配介入などの不当労働行為に該当し、労働組合法違反です。
刑事上の責任
正当ではない組合活動に対しては、組合活動について本来認められる「刑事免責」が認められず、刑事責任を追及されます。
例えば、今回解説している業務時間中のビラ貼り行為について、会社側(使用者側)の許諾を得ず、会社への損害が大きい場合には、器物損壊罪(刑法261条)、建造物損壊罪(刑法260条)の責任追及が可能です。
刑法の裁判例では「損壊」とは、物理的に破壊する行為だけでなく、効用を毀損する行為も含まれることとされており、美観を害したり、威圧的な効果を及ぼしたりする場合、これらの犯罪に該当し得ます。
懲戒処分
正当でない組合活動に対しては、会社側(使用者側)は民事上の責任を問うことができます。会社内における、民事上の責任の基本は「懲戒処分」です。
会社の企業秩序を侵害する行為に対して、会社が処罰を行うことができるのが「懲戒処分」です。
労働者は会社に対して、会社の所有・管理する施設を不当に侵害しない義務を雇用契約上の付随義務として負っており、これに対する違反となることが、懲戒処分の根拠です。
仮処分
正当でない組合活動が、これ以上継続しないよう、仮処分によって差止を求めることが出来る場合もあります。
差止の仮処分とは、権利侵害を差し止めなければ権利侵害が甚大となるおそれのある事態に、差し迫って、「仮に」侵害を差し止める裁判手続のことをいいます。
今回解説している業務時間中のビラ貼り行為について、会社側(使用者側)の許可を得ずに行っていた場合、裁判所に「ビラ貼付禁止の仮処分」を申し立てることができます。
合わせて、撤去請求を行ったり、会社が自力で撤去し、撤去費用を請求したりすることも、民事上の責任追及として可能です。
損害賠償請求
正当でない組合活動によって、会社側(使用者側)が不利益を被った場合には、会社側は労働組合あるいは労働者に対して、損害賠償請求をすることができます。
例えば、不当な組合活動によって会社に貼られたビラの撤去に費用がかかった場合には、その費用は会社の損害となり、労働組合あるいは労働者に対して請求できます。
その他にも、正当でない組合活動によって損害を被ったことを立証できる限り、請求可能です。
「在籍専従」とは?
業務時間中に、組合役員・組合職員となった労働者が、労働組合の活動のみを行う方法に「在籍専従」があります。「在籍専従」とは、従業員の身分を保持したまま、労働組合の組合員の業務のみに従事することをいいます。
在籍専従の期間中は、会社の制度上は休職扱いとなり、労働義務を免除されます。在籍専従に対しては、無給扱いとすることができますが、社会保険料の負担まで中止することは、不当労働行為とされるおそれがあります。
在籍専従は、便宜供与の1つであり、会社は労働組合から在籍専従を強要されることはありません。労働義務を免除するのですから、会社側(使用者側)に裁量があるのは当然です。あくまでも、会社が認めた場合にのみ、在籍専従となることが許されます。
ただし、既に認めている在籍専従扱いを、会社が一方的に廃止するという場合には、支配介入の不当労働行為に当たるおそれがあるので、注意が必要です。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、業務時間中に労働組合による組合活動が行われた場合に、会社側(使用者側)が行うべき適切な対策について、弁護士が解説しました。
労働組合、組合員としては、業務時間中に労働組合活動ができれば、その分、夜遅くまで組合活動で居残る必要がないわけですが、会社側(使用者側)にとっても、これを認める義務はありません。
労働組合からの要求を拒否したり、組合活動を理由として懲戒処分、仮処分、損害賠償請求などの制裁を下すときは、不当労働行為に当たらないかどうか、入念な検討が必要となります。
合同労組・ユニオンなどの労働組合対応にお困りの会社は、ぜひ一度、企業の労働問題に詳しい弁護士に、ご相談ください。
「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ