団体交渉とは、労使紛争を解決するために行う労働組合と会社との交渉のことをいいます。その当事者は、労働者と、雇用主(使用者)が予定されています。
これに対して「請負」は、「雇用」とは異なり、対等な当事者間で締結される、「仕事を完成させること」を目的とした契約です。
とはいえ、「請負」の中には、実質的には「雇用」に等しい契約内容の場合もあることから、「請負」でも労働組合との団体交渉に応じる必要があるのか、が問題となるケースがあります。
具体的には、請負契約をしている個人事業主(フリーランス)の所属する労働組合や、請負企業(下請企業)の労働者が所属する労働組合が、団体交渉を申し入れてきた例です。
そこで今回は、「雇用」ではなく「請負」関係によって仕事を依頼している会社の、労働組合との団体交渉に対する適切な対応方法について、弁護士が解説します。
「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ
請負(業務委託)の「使用者」とは?
労働組合法(労組法)が、会社に義務付けているのは、使用者が「雇用」する労働者の代表者と団体交渉することです。そして、正当な理由なくこれを拒否すると、団交拒否(不誠実団交)の不当労働来いとなります。
「雇用」とは、労働契約(雇用契約)を締結することで、会社が労働者に対して賃金を支払う代わりに、労働者が会社に対して労働力を提供する契約で、労働者は、会社の指揮命令下で、業務時間内の間、職務に専念する義務を負います。
これに対して、「請負」とは、対等な個人間、もしくは、企業間で、「仕事の完成」を約してなされる契約で、業務時間等は定まっておらず、期限までに仕事を完成させれば、いつ、どのような順番で仕事をするかは、請負者の自由です。
しかし、請負企業の労働者や、業務委託の個人事業主(フリーランス)の所属する労働組合であっても、団体交渉に応じなければならない場合があります。
具体的には、雇用主(使用者)と部分的にでも同視できる程度に、現実的かつ具体的に、労働条件などを支配、決定できる地位にある場合です。
なお、「偽装請負」などが問題となる、請負と似た法律関係にあることの多い「派遣労働者」からの団体交渉に応じる必要があるかどうかは、次の解説もご覧ください。
支配力説
「支配力説」とは、不当労働行為が禁止される趣旨が、反組合的行為の排除、防止にあることから、労働関係上の諸利益に、何らかの直接的な影響力や支配力を及ぼし得る者は、「使用者」として団体交渉に応じる義務があると考える学説です。
この考え方からすれば、たとえ「雇用」していない「請負」の発注企業であっても、請負企業の労働者の労働条件について大きな影響を及ぼす場合には、「使用者」として、請負企業の労働者からの団体交渉に応じるべき場合があるということです。
労働契約基準説
労働組合法(労組法)にいう、団体交渉応諾義務を負う「使用者」について、労働契約を基準としながら、労働契約関係にある場合のみには限らず、これと近似ないし隣接した関係を基盤として成立する団体的労使関係の一方当事者もまた「使用者」に当たると考える学説です。
この考え方によれば、請負先企業の労働者ないし請負者と、発注企業との関係が、労働契約に近似ないし隣接した関係にあるといえるかどうかが、判断のポイントとなります。
請負(業務委託)との団体交渉が、特に問題となる場合は?
社外の法人または個人に対して、請負によって業務委託している場合であっても、請負者などからの団体交渉に応じなければならないケースがあることをご理解いただけたでしょう。
また、「合同労組・ユニオンなどの労働組合から申し入れられた団体交渉に応じなければならないか。」は、請負者などとの関係性を考慮し、個別判断が必要です。
請負(業務委託)関係にある会社ないし個人との団体交渉が、特に問題となる特殊なケースについて、弁護士が解説します。
いずれも、団体交渉に応じないと、団交拒否(不誠実団交)の不当労働行為となるおそれが、通常の場合よりも高い状況にあると考えられるため、注意が必要です。
請負(業務委託)に自社内で作業させているケース
IT系企業などを中心に、プログラマ、システムエンジニア(SE)など、外注の業務委託を社内で作業させている会社が増えています。
発注企業が、業務委託契約(請負契約)を締結する会社の労働者を、自社の事業場に受け入れて業務に従事させている場合、団体交渉に応じなければならなくなる可能性が高いです。
最高裁判例(朝日放送事件・最高裁平成7年2月28日判決)でも、次のような事情のある場合に、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件について、雇用主と部分的とは同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあると判断しました。
- 事業主は、雇用主から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していた。
- 雇用主は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちの誰をどの番組制作業務に従事させるかを決定していたに過ぎない。
- 事業主の下に派遣される雇用主の従業員は、事業主から支給・貸与される機材を使用し、事業主の作業秩序に組み込まれて事業主の従業員と共に番組制作業務に従事していた。
- 雇用主の従業員の作業の進行は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべて事業主の従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていた。
以上のような状況であれば、雇用主と同視できる程度に、労働条件について決定権があったと考えられ、その労働条件の改善などの議題について、団体交渉に応じる必要があるわけです。
このことは、業務委託(請負)者が、会社外で業務を進めている場合に比べて、自社内で業務に従事させているほうが、より「使用者性」が認められやすいことを意味しています。
実質的に雇用と同視できるケース
業務委託(請負)とは名ばかりで、実際には、発注者が事細かに業務の指示をしているケースでは、実質的には「雇用」と同視される関係にあります。
発注者からの「注文」を超えて、仕事のやり方や順番、業務時間なども指示し、拘束することとなると、労働関係における「指揮命令」と同様であり、その働き方は労働者と変わりありません。
実質的に雇用と同視できる程度の拘束、制約をしている場合には、少なくともその働き方などの労働条件について、使用者と同視できる程度の決定権があると考えられますから、その点についての団体交渉に応じなければなりません。
請負(業務委託)との団体交渉申入れを受けた会社の適切な対応
請負企業の労働者や、業務委託(請負)をした個人事業主(フリーランス)の所属する労働組合からの団体交渉にも、一定の範囲で応じなければならないケースがあることをご理解いただけたでしょう。
そこで最後に、請負(業務委託)からの団体交渉の申入れを受けた会社側(使用者側)の、適切な対応方法について、弁護士が解説します。
団体交渉に応じる方が例外的ケース
直接雇用ではなくても、団体交渉に応じるべきケースがあることを、裁判例を示して解説しましたが、あくまでも例外的なケースです。
原則としては、法人格が別である以上、発注者と請負者は別の法人です。人事系統も別であり、資本関係も全くなく、直接の雇用者ではない発注者には、団体交渉に応じる義務はないのが原則です。
あくまでも直接の雇用主ではないという原則論に立って、請負企業の労働者との団体交渉に応じる必要はないことを認めた先例(福岡大和倉庫・日本ミルクコミュニティ事件・中労委平成20年7月2日命令)があります。
団体交渉の議題に注意する
団体交渉に応じる必要があるかどうかは、その団体交渉の議題によっても変わってきます。
団体交渉の議題となっている事項が、発注者にとって、影響力、決定権を有している事項かどうかを判断する必要があるためです。
そのため、請負者の労働組合から、団体交渉の申入れを受けたら、まずは、団体交渉申入書の記載を確認し、どのような事項が議題として挙がっているのかを確認してください。議題のうち、自社が影響力、決定権を有している議題のみに絞って団体交渉を受けると回答することもできます。
直接の雇用者と協力する
請負企業(下請企業)の労働者から、団体交渉の申入れを受けた場合には、請負企業(下請企業)との間で締結した請負契約に基づき、請負企業に対して通知し、協力しながら問題解決を図るのがよいでしょう。
ただし、請負企業(下請企業)が倒産したために発注先企業に対して労働者としての地位確認を求める団体交渉を起こす場合など、既に、直接の雇用者である請負企業(下請企業)は、対応が困難なケースも少なくありません。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
直接の雇用主ではなくても、団体交渉申入れを受けなければ、団交拒否(不誠実団交)の不当労働行為に当たる可能性があることについて、今回は、請負(業務委託)に関する団体交渉について解説しました。
請負企業(下請企業)の労働者と発注者の関係は、直接の労働関係にないのは当然のこと、取引関係にもないため、原則として、申入れを拒絶すべき場合が多いとお考え下さい。
ただ、労働条件について実質的な影響力を有する特定の議題についてであったり、そもそも実質的には「雇用」と同視できる状況であったりする場合、団体交渉に応じるべき場合もあります。
合同労組・ユニオンなどの労働組合との団体交渉にお悩みの会社は、ぜひ一度、人事労務に強い弁護士にご相談ください。
「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ