一定の期間だけ限定的に社員を雇うための方法として、「試用期間」「有期契約」の2種類があります。
いずれも、言葉自体は聞いたことがある方がほとんどかと思いますが、しかし、その2つの違いや、どちらが会社側(企業側)にとってメリットがあるのかについて、正しく理解することが必要です。
「有期契約(有期雇用)」と「試用期間」は、それぞれ意味がことなるため、会社側(企業側)としてはその意味の違いを理解して使い分けなければ、思わぬデメリットを受けるおそれもあります。
今回は、「試用期間」と「有期契約」の基本的な知識を、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
「採用内定・試用期間」の法律知識まとめ
相談内容
私は、東京都でシステム開発などを行うIT企業を経営しています。
当社では今まで、3か月間の試用期間を設け、試用期間中に、一定の能力を示した社員を、正社員として本採用し、正社員として採用するに満たない者は本採用拒否することとしていました。
しかし、先日、あまりに態度が悪く、遅刻を繰り返した社員を本採用拒否したら、労働審判を起こされ、結果として多額の解決金を支払わなければならなくなってしまいました。
今後は、試用期間中の本採用拒否によって、このような労働トラブルに巻き込まれることのないように、3か月の有期契約としておき、有期契約中に問題のなかった社員だけを正社員とする予定です。
「試用期間」を「有期契約」に置き換えるこの方法について、法律上問題となることがありましたら、アドバイスを頂けますでしょうか。
試用期間とは?
「試用期間」とは、会社が社員を雇用するときに、一定の期間を設けて、社員の能力や適性を図るための期間をいいます。
「試用期間」の判断で、会社が社員を不要と判断した場合には、本採用しない(「本採用拒否」といいます)わけですが、本採用拒否は自由にできるわけではありません。
正社員の解雇と同様に「解雇権濫用法理」というルールによって、合理的な理由があり、社会通念上相当な本採用拒否でない限り、違法、無効となってしまいます。
注意ポイント
上記の解説のとおり、試用期間が満了したときの本採用拒否は自由にできるわけではなく、一定のハードルがあります。
とはいうものの、このハードルは、正社員を解雇するときのハードルに比べれば格段に低いです。
試用期間の評価をした結果、正社員として本採用したとしてもすぐに解雇が予想されるほどの「問題社員」の場合には、試用期間、もしくは試用期間終了時に本採用拒否とする方がリスクが低いです。
試用期間と有期契約のどちらを選ぶべきか
試用期間の場合には、一定の期間を「試用期間」として区切ってはいるものの、その期間は、本採用されたあとの期間と同様に「期間の定めのない雇用契約」となります。
これに対して、有期契約の場合には、最終的には正社員として本採用されるとしても、本採用後の期間と「有期契約」の期間とは、明確に区別されます。
そこで、「試用期間」と「有期契約」の違いを、メリット、デメリットにまとめて、弁護士が解説します。
試用期間のメリット
まず、試用期間」を設定し、この期間で本採用するかどうかを判断する方法のメリットは、次のようなものです。
採用力が上がる
まずは「有期契約」で様子を見る、という場合、採用をするときには「契約社員」などの雇用形態で採用をすることとなります。
「契約社員」は、契約期間が終わってしまうと雇用契約は終了しますし、いざというときには正社員よりも先にリストラされる危険が高いとされますので不安定です。
これに対して、「試用期間」によって社員の適正を判断する方法ですと、最初から正社員として募集をすることとなります。
求人難である業界などでは、少し厳しい条件をつけてでも、「試用期間」による方法で、最初から正社員を募集し、御社の安定感を示す方がよいケースがあります。
期間途中の解約、延長が容易
「有期契約」の場合には、民法と労働契約法で、あらかじめ決めた契約期間の終了を待たずに解雇するためには、「やむを得ない事由」が必要であるとされます。
この「やむを得ない事由」は、期間の定めのない社員を解雇するときよりもハードルが高いとされています。
これに対し、「試用期間」の場合、就業規則にルールを定めておくことで、問題社員であることが明らかなケースでは期間満了を待たずに本採用拒否の判断をしたり、適正の判断が微妙なケースでは期間延長したりといった柔軟な運用が可能です。
有期契約のメリット
これに対して、「有期契約」で一旦採用した上で、能力・適正のある社員を正社員に登用する方法のメリットは、次のようなものです。
期間満了時の解雇が比較的容易
既に解説しましたとおり、「有期契約」は、期間途中の解雇は「やむを得ない事由」が必要と言う厳しいハードルがあります。
これに対し、期間満了時は、更新をしない限り解約をするのが原則であり、労働者の「更新の期待」を保護するために作られた「雇止めの法理」による制限も、正社員の解雇に比べればハードルが低いといえます。
有期契約を何度も更新している場合はさておき、初期の段階で「期間満了」によって解約するときは、「解雇権濫用法理」などは問題とならず、期間満了によって契約が終了します。
社会保険の対象外となる
健康保険と年金とをあわせて、「社会保険」といいます。
この社会保険は、短期の有期契約の場合には、加入の必要はないものとされています。
延長が容易
「試用期間」の場合であっても、就業規則に延長ができるという旨の定めがあれば、延長することが可能です。
しかし、「試用期間」が数年になるなど、あまりに常識に反する場合には、不適切な処遇と言わざるを得ません。
これに対し「有期契約」によって社員の適性を判断する場合には、いつまでも「有期契約」のまま延長しておくことが可能です(ただし、「更新の期待」が生まれることで、更新拒絶はしづらくなります。)。
「有期契約」が「試用期間」と判断されてしまった裁判例
正社員として採用し、「試用期間」で本採用拒否することには大きなリスクがあるのに対し、「有期契約」として雇止めした方がリスクが少ないように見えます。
しかし、「有期契約は、期間満了で終了するのが原則。」ということだけを信じて、安易に「有期契約」を多用することは、実際の運用としては注意が必要です。
最高裁判例で、有期契約であっても、試用期間としての実態を有する場合には、試用期間と同様の扱いをすると判断した、次のような判例があるからです。
神戸弘陵学園事件(最高裁平成平成2年6月5日判決)「使用者が労働者を新規に採用するにあたり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた主旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」
この最高裁判例にしたがえば、社員の能力・適正を判断する趣旨の「有期契約」が、「試用期間」と同じ評価を受けないためには、「契約期間満了により契約が当然終了する。」という明確な合意があるなどの特別の事情が必要とされました。
つまり、「有期契約」としながら実質的には「試用期間」と変わらない、という運用だと、「有期雇用」ではなく「試用期間」と評価されてしまうおそれがあるということです。
「企業法務」は、弁護士にお任せください!
「試用期間」と「有期契約」は、一定の期間を定めていること、その期間内に社員の能力・適正を見て取り扱いを判断していることといった類似点があります。
しかし、「試用期間」の法的性質は、「有期契約」とは全く異なっており、ケースに応じて、社員に応じて、メリット・デメリットを理解して使い分ける必要があります。
社内の労働者の処遇について、お悩みの経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽にご相談ください。
「採用内定・試用期間」の法律知識まとめ