会社が労働者から労働審判を申し立てられたとき、「会社側(使用者側)」の立場で労働審判に対応することが得意な弁護士に依頼する必要があります。
「労働審判対応」は、労働者側(従業員側)と会社側(使用者側)とでは、全く戦略、方針が異なるためです。
会社経営者として最も気になるのが、「弁護士費用がどれくらいかかるのか?」という点ではないでしょうか。労働審判を会社側(使用者側)で戦うとき、労働者に支払う解決金が必要なケースも少なくなく、支出額はできるだけ安く抑えたいところです。
会社側の労働審判では「解決金」や「残業代」など、支払が必要となる金額の減額交渉を成功させることができるかも含めて、できるだけ適正な弁護士費用、労働審判サービスをご理解ください。
今回は、会社側での労働審判対応を弁護士に依頼するときにかかる弁護士費用の相場を、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
「労働審判」の法律知識まとめ
労働審判(会社側)の弁護士費用の「種類」
労働審判の弁護士費用が、どのような方式によって決まっているかについて、まず解説します。
かつては日弁連作成した報酬基準(「旧報酬規程」といいます。)があり、これに従って弁護士費用を算出することとなっていましたが、現在では弁護士費用は平成16年4月に自由化され、各法律事務所の裁量に任されています。
「旧報酬規程」に基づくと、次のように、会社の得る「経済的利益」によって、報酬が決められることとなっています。
経済的利益 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円以下 | 経済的利益の8% | 経済的利益の16% |
300万円を超え3000万円以下 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
3000万円を超え3億円以下 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
3億円超え | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
「必ずこのような方式で算出しなければならない。」というルールがなくなったため、弁護士や法律事務所によって、さまざまな考え方で報酬を算出しています。
とはいえ、労働審判を、会社側でご依頼いただくとき、次の方式のいずれかによって算出することが一般的です。
- 着手金・報酬金方式
- タイムチャージ方式
- 手数料方式
各方式には、それぞれメリット・デメリットがあります。
「着手金・報酬金方式」による労働審判(会社側)の弁護士費用
「着手金、報酬金方式」とは、労働審判対応の開始時に「着手金」が発生し、依頼内容の終了時に「報酬金」が発生するという費用体系です。
一般的に、「着手金」とは、弁護士に依頼する際に、着手前に発生する弁護士費用であり、報酬金とは、弁護士の事件処理が終了し、生じた結果に応じて発生する弁護士費用のことです。
着手金、報酬金は、その依頼内容によって会社側が手にする「経済的利益」によって決められることが通常です。
会社側で労働審判への対応を行うときは、労働者側から一定の金銭を請求されることが多いため、「経済的利益」は「労働者側からの請求額」もしくは「減額分」として計算することが一般的です。
「着手金・報酬金方式」の例
例えば、「着手金は経済的利益の8%、報酬金は経済的利益の16%」という場合を考えてみましょう。
この弁護士費用の内容で労働審判に対応した結果、労働者が当初300万円の請求をしてきていたところ、100万円に減額したとします。
この場合、着手金は「300万円×8%=24万円」、報酬金は「(300-100)×16%=32万円」、合計で56万円の弁護士費用がかかることとなります。
メリット
「着手金・報酬金方式」によって労働審判(会社側)の弁護士費用を決めるメリットは、「結果が成功であったかどうかによって、報酬が上下する。」という点です。
良い結果であれば多くの報酬が必要となりますが、悪い結果であれば報酬は少なくて済みます。
そのため、万が一、弁護士の業務が失敗して悪い結果になってしまったら、弁護士費用を払わなくても良い場合もあります。
逆にいうと、弁護士も、業務遂行によって最高の結果を得られるよう、最大限の努力をしてくれることが期待できます。
デメリット
「着手金・報酬金方式」によって労働審判(会社側)の弁護士費用を決めるデメリットは、「弁護士の作業量が少なくても、一定の費用がかかってしまう。」という点です。
非常に簡易な事件で、それほどの作業量が生じないとしても、困難な事件と同じだけ良い結果を出せば、同じだけの費用がかかってしまいます。
また、会社経営者といえども、弁護士の仕事をしたことがない方が、事件の難易や弁護士の作業量を見抜くのは、非常に困難です。
タイムチャージによる労働審判(会社側)の弁護士費用
労働審判を会社側で対応する場合に、「どの程度の経済的利益が発生するのか。」をあらかじめ予想することが困難な場合があります。
会社による事前の労使トラブル予防策が十分でなかった場合には、「今回の労働審判では、一定の解決金を支出することは避けがたく、少しでも責任を小さくすることが目的だ。」というケースもあります。
つまり、「勝ちを狙う。」のではなく「負けを少なくする。」ということです。
必ずしも「大きな経済的利益を目指す」わけではない労働審判の場合、かかる弁護士費用について「時間単位で課金する」タイムチャージ方式を採用することがあります。
タイムチャージは、通常「分」単位の課金であり、1時間のタイムチャージが、2万円~10万円程度と、弁護士の知識、経験、年次などによって設定されます。
注意ポイント
タイムチャージ方式で弁護士費用を算出する法律事務所に、労働審判の対応をご依頼される会社は、タイムチャージに何が含まれるかについて、説明を求めておきましょう。
労働審判の準備や、労働審判に出席する時間が含まれることは当然ですが、法律事務所によって、移動時間、判例調査などにかかる時間を含むかどうかは、取り扱いが分かれます。
メリット
「タイムチャージ方式」によって労働審判(会社側)の弁護士費用を決めるメリットは、「作業した分の弁護士費用しか必要ない。」という点です。
つまり、同じ結果を出すにあたって、作業量が少なければ少ないほど、労働審判の内容が簡単であればあるほど、弁護士費用は少なくて済みます。
デメリット
「タイムチャージ方式」によって労働審判(会社側)の弁護士費用を決めるデメリットは、「上限がない。」という点です。
ご依頼いただいた労働審判の内容が非常に複雑で、労働審判への対応に長時間がかかる場合には、弁護士費用が、あらかじめ予想できないほど高額になるおそれがあります。
無制限に弁護士費用が高額化することを避けるため、あらかじめ契約によって、弁護士に発生する作業量を見積もってもらい、タイムチャージの金額に上限を設定することがあります。
手数料方式による労働審判(会社側)の弁護士費用
「着手金・報酬金」、「タイムチャージ」のいずれのデメリットも考慮した折衷案が、「手数料方式」による弁護士費用の算出です。
あらかじめ法律事務所が定めた一定額を、労働審判(会社側)への対応の「手数料」として、一度に支払うという方法です。
メリット
「手数料方式」によって労働審判(会社側)の弁護士費用を決めるメリットは、「あらかじめ適正な弁護士費用しか発生しないことが予想できる。」という点です。
最初に提示された弁護士費用が適正であれば、それ以上に予想外の費用が発生することはありません。
御社に起こった労働審判と同種の案件を多く対応している弁護士であれば、「どの程度の作業量がかかるか」をあらかじめ予測することができるため、「手数料方式」による弁護士費用を提案することができます。
デメリット
「手数料方式」によって労働審判(会社側)の弁護士費用を決めるデメリットは、「結果にかかわらず一定の費用が発生する。」ということです。
手数料方式による場合には、弁護士側にとって「最低限の仕事で、最高の結果を生もう。」というモチベーションが生まれるおそれがあります。
手間を惜しまない熱意のある弁護士に依頼し、手抜き処理とならないよう注意することが必要です。
当事務所に、労働審判(会社側)を依頼するときの弁護士費用
最後に、弁護士法人浅野総合法律事務所が、会社側(使用者側)の労働審判への対応をご依頼いただくときの弁護士費用について、解説します。
当事務所では、さきほど解説しました各方式のメリット・デメリットを踏まえ、原則として、「手数料方式」によるご提案を差し上げております。
難事件、特殊な案件など、内容によっては別途の見積もりとなる場合がございます。
「手数料方式」の弁護士費用を提案する理由
「手数料方式」によって労働審判(会社側)の弁護士費用を決めることによって、着手金・報酬方式、タイムチャージ方式にある次のようなデメリットを避けることができます。
- 予想外に弁護士費用が高額となってしまう。
- 作業量が少なくても割高の弁護士費用がかかってしまう。
- 弁護士の業務量、事案の難易度が見えづらい。
これに対して、「手数料方式」を採用することで、弁護士の立場から考えると「有利な解決を目指すインセンティブが生まれにくいのではないか。」という疑問があります。
つまり、「どれだけ頑張って業務遂行しても、手抜きで業務を行っても、弁護士費用は変わらない。」という不安です。
しかし、当事務所では、会社側の立場で多くの労働審判を解決した実績、経験があるため、「手数料方式」であっても、高品質のリーガルサービスを提供することを保証できます。
手数料額
「手数料方式」によって弁護士費用を決めるとき、ご提案する手数料額は、「30万円~60万円」であり、事件の難易度、想定される作業量を目安として、お聞きしたご相談内容に応じてお見積りします。
概ね、目安として、次の表を参考にしてください。
事案の種類 | 手数料額 |
---|---|
軽微な事案 | 30万円 |
通常の事案 | 50万円 |
難解な事案 | 60万円 |
これ以外に、「日当」「出廷費用」など、別名目の費用がかかることはなく、「明朗会計」をこころがけています。
日当や出廷費用など、期日対応についてご費用をいただかないのは、当事務所が、労働審判(会社側)を早期解決することができるからです。
参考
労働審判に対して「異議申立」がされて、訴訟に移行してしまったケースでは、追加の費用が必要となることが一般的です。
当事務所では、労働審判の場合には「手数料方式」ですが、訴訟になった場合には「着手金・報酬金方式」を原則としています。
ただし、労働審判からご依頼をいただいている場合には、訴訟の着手金は頂かないことがあります。
弁護士費用以外にかかる負担
「手数料方式」によって、労働審判(会社側)を弁護士に依頼したとき、弁護士に支払う費用がそれ以外にかかることはありません。
しかし、労働審判を解決するにあたり会社側(使用者側、企業側)が負う金銭的負担が必要となることがあります。
会社として、経営者としては「総額いくらかかるのか。」を把握しておく必要があります。労働審判の解決にかかる金銭支出は、例えば次のようなものです。
- 実費
- 解決金
労働審判を解決まで遂行するにあたって、必要となる実費(郵送費、交通費など)が必要となります。
ただし、労働審判は、期間も限定されており、3回までの期日で解決することが原則ですので、それほど多くの実費が必要となることはありません。
不当解雇、残業代などの労働問題について、労働審判で解決するためには、労働審判における話合い(調停)を成立させるために、一定の解決金が必要となることが一般的です。
どの程度の解決金が必要となるかは、労働審判への対応時にある程度予測がつくこともあるため、弁護士にご相談ください。
弁護士費用を安く(適正に)抑えるためのポイント
最後に、労働審判(会社側)の解決を弁護士に依頼するとき、弁護士費用をできるだけ安く(適正に)抑えるためのポイントについて、まとめておきます。
ただし、弁護士は「安かろう、悪かろう」であってはいけません。弁護士に方針の説明をきちんと受け、事件の解決にあたって支払う解決金の金額とあわせて、損得を比較していただく必要があります。
契約前に見積もりをもらう
弁護士の比較検討をお考えの場合には、見積書の発行を求めるようにしましょう。
見積書は、弁護士が、提示した費用でその問題を解決できることの証明になるからです。口頭での報酬提案に過ぎない場合、その事案をより詳しく聴取したり、時間が経過したりすることで、費用感が変わってしまうこともあります。
特に、ホームページ上で記載されている弁護士費用は、あくまでも一般的な例に過ぎず、詳しい事情ごとに個別のお見積りをする法律事務所がほとんどです。
費用対効果を検討する
弁護士費用の安さだけに引かれて、同種事案の経験に乏しい弁護士を選ぶこともお勧めできません。労働審判対応(会社側)では、弁護士の力量、腕前によって、結果が大きく異なることもあります。
弁護士費用が多少高めであっても、大きな成功を勝ち取れれば、総額としての費用対効果がとても高いという場合もあります。
事案に即した正確な方針を教えてもらうためには、ぜひ一度法律事務所に足を運び、対面相談を受けてください。その際、疑問点、不安点は遠慮なく質問して、弁護士の回答を求めましょう。
信頼できる弁護士に任せる
最後に、今回は「労働審判(会社側)を依頼するときの弁護士費用」についての解説ですが、最終的に弁護士を選ぶときには、費用だけでなく「信頼できるかどうか」という点でよく見極めをしてください。
会社の労働問題を任せるということは、重要な秘密を打ち明けるに等しいことです。「人間的に、気に入らない」という場合、長い付き合いは困難であり、解決結果もあまり良い方向には進みません。
会社や経営者の抱いている不安や疑問に、誠実に、正面から、正しい答えをくれる弁護士を選ぶのが一番です。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、企業側(会社側・使用者側)の立場で、労働審判への対応のサポートを依頼するときの弁護士費用について解説しました。
会社側で、労働者から労働審判の申立てをされた際には、限られた時間の中で、会社側に有利な解決を得るための準備を進めなければならず、弁護士のサポートは必須といっても過言ではありません。
答弁書などの期限までにあわてて弁護士を探さなければならず、弁護士費用面で不満が残らないよう、かかる弁護士費用の相場や考え方の基本を理解してください。
社員(従業員)から労働審判を申し立てられてしまった会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お早目にご相談ください。
「労働審判」の法律知識まとめ