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人事労務

パワハラの労働審判で、会社側が主張すべき反論と、答弁書のポイント

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「パワハラ」は、職場で起こる労働問題の中でも、特に法律相談となることの多いトラブルの1つです。

しかし「パワハラ」の法律上の定義は特になく、会社側(使用者側)で「パワハラ」をめぐる労働審判で適切に対応するには、労働法の十分な法律知識、裁判例の知識が必要となります。

「パワハラ」の労働審判で、適切な反論を記載した答弁書を提出できなければ、「パワハラだ!」といわれることをおそれ、注意指導が甘くなり、企業秩序が保てないことともなりかねません。

今回は、パワハラをめぐって申し立てられた労働審判で、会社側(使用者側)が主張すべき反論と答弁書のポイントを、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

1. パワハラについての労働審判の流れ

労働者(社員)から、パワハラの違法性について慰謝料請求の労働審判を受けた会社は、まず労働審判手続の流れを全体的に理解する必要があります。

特に、パワハラ問題を労働審判手続の中で解決するためには、事実認定を正確に行い、「調停」を会社側(使用者側)有利に進める必要があるからです。

1.1. 一般的な労働審判の流れ

一般的な労働審判の流れは、パワハラを理由とする安全配慮義務違反の労働審判手続の流れでもあてはまります。

パワハラ問題の労働審判を、会社側(使用者側)に有利に進めるために、まずは労働審判の流れについて理解してください。

1.2. 調停が中心となる

「パワハラ」をめぐる争いの場合、「原則3回」の期日で、スピーディに労働問題を解決するという労働審判の制度趣旨になじみづらいことから、労働審判を有利に進めるためには、「話し合い」の精神が重要です。

「パワハラかどうか。」という困難な法的評価は、短期集中型の審理にはなじみづらく、また、隠れて「パワハラ」が行われた労働問題のケースでは、事実認定(パワハラがあったかどうか)も問題となるからです。

上記で解説した労働審判手続の流れでいえば、第1回期日の後半以降に行われる「調停」での話し合いを重視します。

2. 会社側の反論と、答弁書

以上の、「パワハラ」に関する会社の責任について、会社側に有利な解決のための労働審判の流れを把握していただいた上で、会社側(使用者側)が主張すべき答弁書の準備について、弁護士が解説していきます。

2.1. 答弁書の一般的な注意

一般的な労働審判の答弁書に関する注意事項は、パワハラを理由とする安全配慮義務違反の責任追及でも、当然配慮が必要です。

したがって、パワハラの加害者となってしまった社員だけでなく、会社にどのような法的責任が追及されるおそれがあるかについて、法律論を理解してください。

2.2. 「パワハラ」の定義

パワハラの定義は、厚生労働省が次のように定めています。

 パワハラの定義(厚労省) 

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

しかし、この定義を形式的に見るだけでは、「どのような行為がパワハラか。」という労働審判における判断を予想し、会社側(使用者側)に有利な反論をすることはできません。

抽象的な定義だけを知るのではなく、労働法の重要な裁判例を理解し、「パワハラの境界」を理解してください。

 参考 

「優位性」を利用した行為が「パワハラ」であることは、厚労省の定義から理解していただけるでしょうが、この「優位性」は、「上司から部下へのパワハラ」だけに限りません。

例えば、パソコンスキルにおいて優位であることを理由に「部下が上司をいじめる。」というパワハラもあり得ます。

この例をとってみても、厚労省の定義だけでは、「どのような行為がパワハラか」という裁判所の判断をあらかじめ予想することが困難であることは理解いただけるでしょう。

2.3. パワハラの会社の責任

パワハラの会社の責任についても、セクハラの解説で説明したことと同様です。

つまり、パワハラの責任を第一次的に負うのはパワハラを行った社員ですが、会社もまた、パワハラを防止、予防しなかった責任を負うこととなります。

パワハラの責任を、法的に会社も負わなければならないという労働法上の理由は、次の2点です。

 パワハラについての会社の責任 
  • 不法行為責任(使用者責任)
    :パワハラは不法行為ですが、業務に関連して不法行為が行われた場合、使用者は監督責任を負います。
  • 債務不履行責任(安全配慮義務違反)
    :会社は、雇用契約上、労働者を安全に働かせる義務があり、パワハラに対して適切に対処しなければこの義務に違反することとなります。

【反論1】 パワハラの事実はなかった

「パワハラ」と労働審判申立書で主張された事実が、そもそも存在しないという場合、加害者はもちろん会社もまた、一切の法的責任を免れます。

したがって、「事実認定」について「パワハラの事実はなかった。」と反論することが、会社側(使用者側)の有利な解決につながります。

① 証拠収集が重要

「パワハラ」と申し立てられた事実自体がないという反論をする場合、証拠が重要となります。

本来、「パワハラ」の事実を立証する責任は労働者側にありますが、「パワハラ」の事実がないことを会社も積極的に証明していく必要があります。

その際は、次のポイントに注意して証拠収集するようにします。

  • 労働者側がパワハラの証拠と主張している証拠が、客観的事実と矛盾する。
  • 目撃者、関係者などの証言が、労働者側の主張する事実と整合しない。
  • パワハラの事実と明らかに矛盾する会社側の証拠がある。

これらのパワハラの事実を否定する証拠を収集するため、また、パワハラの再発防止のため、当事者や関係者の事情聴取を行ってください。

② 会社側に有利な解決

パワハラの事実自体がないと労働審判で認めてもらえれば、不法行為はもちろん、債務不履行(安全配慮義務違反)の責任を負うこともありません。

慰謝料請求、損害賠償請求に応じる必要もなく、会社側(使用者側)に有利な解決となります。

【反論2】 業務上の指導が必要である

「パワハラ」と「厳しい指導」とは、「紙一重」です。

労働者側が労働審判で慰謝料を求める「パワハラ」が、会社側からみれば単なる「厳しい指導」であると反論したいケースがあります。

① 指導の必要性

会社側(使用者側)が、問題となっている行為について、「パワハラ」ではなく「指導」であると反論するためには、まず「指導の必要性」が必要となります。

労働者が重大なミスをするなど、「指導の必要性」がなければ、厳しく指導をすることは不適切だからです。

② 会社側に有利な解決

会社側(使用者側)が答弁書で反論する「指導の必要性」が認められる場合には、「パワハラ」ではなく「厳しい指導」であると判断される可能性が高くなります。

そして、「厳しい指導」であれば違法ではありませんから、慰謝料請求、損害賠償請求に応じる必要はありません。

【反論3】 注意指導として相当である 

先ほど解説しました「指導の必要性」が認められたとしても、次は、注意指導が相当な行為でなければいけません。

たとえ労働者がミスをしたとしても、そのミスが軽微な場合に、必要以上の厳しい指導をすることは違法です。また、暴力や脅迫は、たとえ指導が目的でも許されません。

① 指導の相当性

「指導の必要性」を労働審判で認めてもらうためには、次の2点を答弁書で詳細に主張することが重要です。

  • 労働者のミスが、業務に与える支障が大きいこと
  • 労働者のミスを防止するために、必要な範囲内の指導であること

特に、事実と証拠を重視し、答弁書にしっかり記載してください。

② 会社側に有利な解決

「指導の必要性」があり、「指導の相当性」も認められるという場合には、労働者が申し立てた労働審判は、「パワハラ」ではなく「正当な業務上の指導」であるといえます。

したがって、慰謝料を支払う必要もありませんし、解決金などを内容とする「調停」に応じる必要もなく、あるとしても、「迷惑料」程度の解決金で抑えることとなります。

【反論4】 業務と無関係な行為である

労働者側が、労働審判で「パワハラ」と主張している事実が、純粋な私的行為(プライベート)の場合には、会社が責任を負うことはありません。

したがって、「業務と無関係な行為である。」という反論を答弁書に記載することが、会社側(使用者側)に有利にはたらきます。

① 業務と密接に関連するか

とはいえ、「セクハラ」の場合と異なり、「パワハラ」と主張される行為は、業務に関連していることが大半であるといえます。

「パワハラ」か「純粋な私的行為」かを区別するには、「会社内で行われたか。」、「業務時間中の行為か。」という点ではなく、「業務に関連しているかどうか。」という基準で判断します。

会社外で、業務時間外で行われたとしても、会社内における上下関係(上司・部下の関係)を利用した違法行為は、「パワハラ」にあたります。

② 会社側に有利な解決

純粋な私的行為、例えば、会社内で業務時間中に行われたとしても、「個人間のケンカ」といったケースでは、会社が責任を負うことはありません。

会社側(使用者側)に有利な解決を得るためにも、私的行為である場合には、業務との関連性が全くないことについて答弁書で詳細に反論しましょう。

3. まとめ

パワハラの労働審判を労働者側から申し立てられることは、今後もますます増加していくものと思われます。

「たかがパワハラ」と甘く見ると、労働者の損害が大きくなり、メンタルヘルス、過労死、過労自殺などの原因となってしまえば、多くの解決金、慰謝料が必要となってしまうケースもあります。

社内のパワハラ問題にお悩みの会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お早目にご相談ください。

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