労働審判を申し立てられてしまった会社の方からよく質問があるのが、「労働審判の期日には誰が参加するべきか。」という点です。
会社側(使用者側)で対応する際には、準備期間があまりなく、参加する必要がある関係者の予定は、裁判所から呼出を受けたらすぐにスケジュールをおさえていただく必要があります。
労働審判は、こちらの解説で説明しているとおり、第1回期日がとても重要です。そのため、第1回期日に参加できないことが、会社にとって大きなデメリットともなりかねません。
今回は、労働審判における会社側の出席者と、労働審判の進め方のポイントを、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
「労働審判」の法律知識まとめ
労働審判に弁護士が出席する理由
労働審判の申立てを受けた会社が、労働審判に全く出頭しなかった場合には、正当な理由なく出頭しなかった場合、5万円以下の過料に処せられます。
この労働審判の出席は、会社がご自身で対応される場合には、「代表者」の出席が必須となります。これは、部長や担当取締役などの担当者が出席した場合でも変わりありません。
つまり、たとえ社長が全く労働問題のことを知らなかったとしても、部長や担当取締役などの関係者の出席では足りないわけです。
これに対し、弁護士が会社の代理人として労働審判に出席する場合には、社長(代表者)自身が参加される必要はありません。
注意ポイント
弁護士が労働審判に出席する理由としては、その場で適切な法律アドバイスをスピーディに可能とするという点もあります。
しかし、労働審判の経験豊富な弁護士を依頼したとしても、弁護士だけを労働審判に参加し、丸投げすることはおススメできません。
というのも、労働審判では、第1回期日に行われる事情の確認が重要であり、弁護士よりも具体的な事実を知っている、会社の担当者の方は必ず同席すべきだからです。
労働審判における会社側の出席者(担当者)
次に、実際に労働審判に出席(参加)すべき、会社側の担当者について、順に解説していきます。
ただし、ここで解説したすべての人物が、必ず労働審判に参加していただかなければならないわけではありません。検討の上、会社側(使用者側)に有利な事情を証言できる人物を、労働審判に参加してもらいます。
社長(代表者)
社長(代表者)は、会社の方の中で、唯一会社の代理として出席する権限があります。
したがって、弁護士を依頼されない場合には、社長(代表者)が、労働審判に必ず参加していただく必要があります。
これに対し、弁護士が労働審判に参加する場合には、社長(代表者)が参加すべきかどうかは、次のとおり社長が労働審判に参加する場合のメリット、デメリットを考慮して考える必要があります。
社長が労働審判に参加するメリット
社長が労働審判に参加するメリットは、「調停」の話し合いにおいて、会社の結論を柔軟に調整できることです。
労働審判は「話し合い(交渉)」の手続きですが、会社の意思決定は、社長(代表者)が行うため、その場にいていただければ、即座に解決することも可能です。
社長が労働審判に参加するデメリット
社長が労働審判に参加するデメリットは、まさにさきほど解説したメリットの裏返しです。
つまり、即座の決定を求められることによって、ある程度会社が譲歩(妥協)を飲まざるを得ないケースがあります。
また、社長(代表者)が感情的になりやすい方である場合には、労働審判で問題行為をしてしまうと、心証が非常に悪くなってしまいます。
人事・総務の担当役員
社長が出席しない場合であっても、弁護士に丸投げすべきでないことは、冒頭で解説しましたとおりです。
すると、次に、会社内から責任ある立場の方にご同席いただくとすれば、最も適切なのは、人事部門、総務部門の責任者の方の参加を検討してください。
直属の上司
最後に、労働問題を、労働審判において具体的に主張、立証いただくために、労働問題に関する具体的な事実をご存じの方に同席をお願いすることが多くあります。
労働問題についての具体的な事実をよく把握しているのは、「直属の上司」が一番です。というのも、上司には、会社の代理として労働者を監督する責任があるからです。
労働審判に参加(出席)する方の注意点
以上の解説を労働審判に参加(出席)する会社の担当者が決まったら、次に、参加者(出席者)が注意しておくべきポイントを理解する必要があります。
弁護士の指導のもとに労働審判への対応を進めている場合には、必ず、第1回期日に参加する前に、弁護士からの注意を受けるようにしてください。
労働審判における着席位置について
労働審判は、訴訟のような法廷ではなく、「労働審判廷」という、普通の部屋で、円卓で行う場合が通常です。
そこで、当日突然あわてることのないよう、労働審判廷においてどのような着席位置になるか、あらかじめ知っておきましょう。
労働審判廷の中央に、判断者である「労働審判委員会」が中央に座り、その右手に申立人(労働者側)、その左手に相手方(会社側)が着席します。
それぞれの当事者の着席位置は、隣り合わせにならないよう、弁護士を間にはさんで着席するのが一般的です。
期日前のリハーサルが重要
期日での対応は、非常に判断が難しい場合があるため、会社側(使用者側)の担当者の方が、期日においてどのような対応をすべきか、事前にリハーサルをします。
リハーサルは、「想定問答」などにしたがい、弁護士の指導のもとに行ってください。
ケースによっては、労働審判中に「言ってはいけない発言」、「会社側の不利になってしまう事実」等がある場合があるからです。
また、弁護士の作成した答弁書を熟読し、会社側(使用者側)に有利な反論を理解していただくようにします。
労働審判委員会のリードに従う
労働審判の期日の進行をリードするのは、労働審判委員会です。
決して、当事者が長時間演説をする時間があるわけではありません。あくまでも、労働審判委員会の期日進行にしたがい、必要なことを回答するよう努めてください。
第2回期日以降は、必ず出席ではない
以上のとおり、労働審判の中でもとても重要な第1回期日では、出席者(参加者)を慎重に選定し、会社側(使用者側)の不利にならないようにしなければなりません。
しかし、これは第1回期日に、事実関係の確認が行われるからであり、事実関係の確認が原則として行われない第2回期日以降は、この限りではありません。
第2回期日、第3回期日に、「調停」すなわち話し合いの調停だけが予定されているときは、弁護士だけの出席でも足りるケースも少なくありません。
ただし、会社側(使用者側)に有利な解決になる場合には意思決定が即座にできるよう、社長(代表者)が期日中はお電話のつながる状態にしていただくようお願いしています。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、労働審判を申し立てられてしまった会社の担当者の方から特に質問の多い、「労働審判には誰が参加(出席)するべきですか?」という質問に対し、弁護士が回答しました。
労働審判を会社側(使用者側)の有利に進めるためには、労働審判への出席(参加)をする人の選定から、既に戦いが始まっているとご理解ください。
労働審判への対応に苦慮されている会社経営者の方は、企業の労働問題を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。
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