「不当解雇」や「残業代請求」などの労働トラブルで、労働審判の申し立てを受けてしまった会社が、特に気にするのが、「解決までにかかる期間」についてでしょう。
特に、労働審判の場合、会社の担当者や、場合によっては社長(代表者)が出席(参加)して対応を余儀なくされるため、会社の事業がストップしたり、人件費が余計にかかったりします。
会社側(使用者側)としては、できるだけ短い期間で解決したいでしょうが、焦りは禁物です。労働者側としても、労働審判を利用している以上、「話し合い(交渉)」の余地があるからです。
今回は、労働審判の申し立てを受けた会社が、法律相談から解決までにかかる期間について、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
「労働審判」の法律知識まとめ
労働審判にかかる期間
労働審判では、平均的に、約70日の審理期間がかかるという統計が出ています。
これは、労働訴訟が、通常1年以上の期間がかかるのに比べて大分短く、労働者保護のためにスピーディに解決することができる制度だとされていみあす。
ただし、このデータはあくまでも「平均審理期間」であって、ケースによっては、労働審判にかかる期間はより長くなったり、より短くなったりします。
労働審判では、通常、「3回まで」の期日で解決するものとされていますが、必ず3回かかるわけではありません。そこで、通常より短くなるケース、長くなるケースについて解説します。
平均より短い期間で解決できるケース
平均よりも短い期間で、労働審判を解決できるケースとは、早めに「調停(和解)」が成立する場合です。
話し合いによってお互いが妥協(譲歩)すれば、その分だけ早く解決します。スピードを重視する場合には、会社側(使用者側)からある程度歩み寄ることも1つの手です。
平均より長い期間がかかるケース
逆に、労働審判の平均審理期間である約70日を超えて長い時間がかかる場合とは、「調停(和解)」の話し合いがこじれたり、双方の検討に期間が必要であったりする場合です。
しかし、期間が長くかかるからといって、会社側(使用者側)に有利な解決をあきらめてはいけません。
というのも、争いが激化すれば、訴訟への移行となりますが、その場合には、より長い期間がかかることが当然予想されるからです。
早期解決を目指すのであれば、少し審理期間が長くなったとしても、できるだけ労働審判の中で話し合いによる解決(調停)を目指すべきです。
できるだけ短い期間で労働審判を解決する方法
労働審判の平均が「70日」程度と聞くと、「長い。」という印象をお持ちの会社経営者の方も多いのではないでしょうか。
会社の社員が、場合によっては代表者(社長)が、半日も拘束されるのが労働審判の期日ですから、できるだけ短い期間で労働審判を解決したいところです。
スピードだけを優先するのでは、会社側の不利になってしまうおそれもありますが、できるだけ短期間で解決するための方法を解説していきます。
労働審判に強い弁護士に依頼する
労働審判を弁護士に依頼すると、適切な答弁書と反論の作成、証拠収集を、弁護士のアドバイスを受けながらスピーディに進めることができます。
特に、労働審判を会社側(使用者側)で解決した実績の豊富な弁護士であれば、「不当解雇」、「残業代請求」など、労働審判でよく争われるトラブルについての準備には慣れていますから、素早く進めることができます。
あらかじめ方針を立てる
労働審判期日がはじまると、ある程度、労働審判委員会(裁判所)の指揮にしたがって期日が進んでいかざるを得ません。
そこで、できる限りの準備は、期日の前に入念に行っておくべきです。
具体的には、「調停」をスムーズに、かつ、スピーディに進めるためには、譲歩案(妥協案)を具体的に練っておくのがよいでしょう。
訴訟へ移行するデメリットを考える
労働審判の中で、「調停」による話し合いが不成立に終わると、いよいよ「労働審判」という最終判断が下された上で、会社側(使用者側)に異議があれば訴訟に移行します。
そこで、譲歩案(妥協案)を考える際には、訴訟に移行した場合のことを検討し、次のことを考えましょう。
- 訴訟に移行した場合に、結果が変更される可能性はどの程度あるか
- 訴訟に移行した場合に、追加でかかる期間、費用
これらを総合考慮すると、会社側(使用者側)として、「どこまでなら譲歩(妥協)できるのか。」が明確になります。
会社のスケジュールで遅延させない
のちほど解説しますとおり、第1回期日の中で話し合いがまとまらなければ、第2回、第3回期日へ持ち越しとなります。
この期日の間がどの程度となるかの際に重要となるのが、労働審判委員会のスケジュールです。労働審判委員会は、裁判官及び委員2名の合計3名で構成されるため、全員のスケジュールを合わせなければならないからです。
ここで会社側が調停案を検討するのに多くの期間がかかるとなれば、必然的に、労働審判の解決までにかかる期間も長くなりがちです。
労働審判にかかる期間と、スケジュールの例
最後に、東京地裁に労働審判を申し立てされてしまったケースを例にとって、実際の労働審判のスケジュールがどのように進み、解決までにどの程度の期間がかかるかについて、まとめてみました。
労働審判申立て~事前準備
労働者側が労働審判の申し立てを行うと、原則として、「40日以内」の間に、第1回期日が設定されます。
第1回期日が設定されると、その1週間前の日にちを、会社側の提出する答弁書の期限とし、裁判所が会社に対して、「呼出状」を送達します。
したがって、会社側(使用者側)としては、呼出状が送られてきた後の準備期間は、1か月程度、もしくはそれより短期間となるのが一般的です。
なお、東京地裁のように、都心部の裁判所は非常に多忙であり、「40日以内」に第1回期日が行われない場合があります。
第1回期日
申立てから「40日以内」に設定された第1回期日は、原則として変更が困難です。
この第1回期日は、おおむね2~4時間程度行われ、事実関係の確認と、調停(話し合い)、次回期日の調整が行われます。
第1回期日で、調停(話し合い)が成立する場合には、これで解決となりますから、労働審判の解決にかかる期間は「1か月~40日」程度となります。
第2回、第3回期日
第1回期日で話し合いがまとまらない場合には、2~4週間くらいの間隔で、第2回、第3回期日が設定され、話し合いが継続的に行われます。
期日の間について、どの程度の期間を置くかは、次の事情を考慮しながら、労働審判の場での話し合いによって決まります。
- 労働者側が、調停案を検討するのに要する期間
- 会社側が、調停案を検討するのに要する期間
- 労働審判委員会のスケジュール
- 労働者側、会社側の当事者のスケジュール
特に、会社の側が、譲歩案(妥協案)を入念に練っていないと、検討に時間がかかり、労働審判の解決にかかる期間が長くなりかねません。
少しでも短期間で、早く労働審判を解決させるためにも、事前に会社側(使用者側)の方針を決めておくようにしてください。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
労働審判を申し立てられてしまった会社としては、「できるだけ早く解決したい。」というお考えはよく理解できます。
しかし、スピードだけを優先して焦っては、会社側(使用者側)の有利な解決とするチャンスを見逃してしまうおそれがあります。
できるだけ早く解決するためには、「調停」による話し合いの進め方や、事前準備が重要となります。
「労働審判」の法律知識まとめ