労働者から突然、労働審判の申立てを受けてしまった会社が心配することは、「企業イメージが低下するのでは?」という点です。
特に「ブラック企業」が社会問題化する昨今、労働問題の放置、悪化が、会社のイメージに影響することは明らかです。労働トラブルが「公開」され、明るみに出ることは、さぞ不安なことでしょう。
労働審判は、訴訟とは異なり「非公開」の手続きです。労働審判を申し立てられただけでは、社外の第三者に労働トラブルを知られることはありません。
今回は、労働審判の申し立てを受けた会社が、「非公開」で労働問題を解決するためのポイントを、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
「労働審判」の法律知識まとめ
労働審判は「非公開」
労働審判は、「非公開」の手続きです。このことは、次のとおり、労働審判のルールを定める「労働審判法」にも定められています。
労働審判法16条労働審判手続は、公開しない。ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。
したがって、労働審判は非公開で行われますから、無関係の第三者はもちろんのこと、他の社員(従業員)、取引先などにも、労働審判を行っているという事実が知られることはありません。
労働審判廷で行われる
労働審判は、非公開の「労働審判廷」で行われます。
この「労働審判廷」は、訴訟で使われる法廷とは異なり、関係者しか入ることができません。
法廷とは異なり、一般的に、円卓のある個室で行われます。
日程も公開されない
裁判は、その日程が第三者にも公開され、興味のある人は傍聴することができます。
東京地裁であれば、1階のロビーに、裁判日程が確認できる台帳がおいてあり、裁判期日を確認することができます。
これに対し、労働審判は、いつ、どのような会社が労働審判を行っているかすら、非公開となっています。
労働審判を傍聴できる?
以上のとおり、労働審判は「非公開」であり、無関係の第三者が「傍聴」することは原則として認められていません。
この点が、傍聴が自由であり公開の裁判との違いです。
とはいえ、労働審判の傍聴も、労働審判委員会が相当と認める場合には行うことができることは、さきほどの労働審判法の条文を見ていただければご理解いただけるでしょう。
傍聴は労働審判委員会の許可が必要
原則として非公開である労働審判を傍聴するわけですから、そのための条件として、労働審判委員会の許可が必要となります。
ただ、労働審判委員会が許可するかどうかは、ケースバイケースと言わざるを得ず、最終的な判断は、個別のケースによって異なります。
傍聴が許可されるケース
労働審判の原則である「非公開」の例外となる、「傍聴」を許す場合がどのような場合であるか、について解説します。
あまりに広く傍聴を許すことは、労働審判を「公開」のものとするに等しく、適切ではありません。
したがって、会社側が傍聴者を希望する場合には、早めに労働審判委員会に伝え、許可を得るべきです。
労働審判の参加者から秘密がもれる?
「労働審判は非公開である。」とはいえ、当然ながら、労働審判に参加(出席)している者に対しては、労働審判の内容はわかってしまいます。
そこで、労働審判の参加者(出席者)ごとに、「非公開」が守られるのかどうか、「公開」されてしまわないのかどうかについて、解説します。
結論として、労働審判の参加者から、労働トラブルが第三者に漏れることはないといってよいでしょう。
労働審判委員会
労働審判の判断を下すのが「労働審判委員会」です。
裁判官及び労使双方の委員2名の、合計3名で構成されます。いずれも職務上の守秘義務を負うことから、労働審判委員会から第三者に、御社の秘密が漏れることはありません。
代理人弁護士
労働審判では、労働者側も会社側(使用者側)も、いずれも代理人弁護士がついていることが多くあります。
弁護士は、弁護士法によって、厳しい守秘義務を負っており、職務上知りえた秘密を第三者に漏らすことはありません。
当事者
労働審判では、当然、当事者である労働者自身が参加してきます。
当事者である労働者自身から労働トラブルが外に漏れることを完全に防止することは、残念ながらできません。
しかし、できる限り調停による話し合いで収め、調停案(和解案)に「守秘義務条項」を付けることにより、当事者から第三者に対して労働トラブルの内容が漏れることをある程度防ぐことができます。
関係者
労働審判では、第1回期日に事実関係の確認がなされるため、「証人」的な立場で第三者が参加することがあります。
このような関係者から労働トラブルが外部に漏れないようにするためには、少なくとも会社側が同席させる人物を、ある程度以上の職責の人物に絞るべきです。
調停、和解を非公開にするために
「調停」は、労働審判手続きにおける話し合いのことをいいます。つまり、「調停」が成立したとなれば、これ以上の争いはないのが原則です。
したがって、会社側(使用者側)としては、労働者から労働トラブルの内容が外部に漏れないよう、「守秘義務条項」を記載してもらうことを求めるようにしてください。
労働審判における「調停案」で、一般的に記載される守秘義務条項は、例えば次のようなものです。
申立人及び相手方は、本調停に至る経緯及び本調停の内容を、みだりに第三者に対して漏洩、口外しないことを確認する。
注意ポイント
労働審判の手続きにおいて「調停」が成立しないと、労働審判委員会の最終決定である「労働審判」が下されます。
そして、この「労働審判」に対して異議申立をすると訴訟に移行しますが、訴訟は「公開」であり、第三者にも労働トラブルが明らかとなってしまいます。
「労働審判」は公開?対応策は?
「調停」で解決をする場合には、「守秘義務条項」を入れることによって「非公開」を保つことができるのに対して、「労働審判」では「守秘義務条項」を入れる交渉ができません。
とはいえ、「労働審判」は、あらかじめ示された「調停案」と同内容のことが多いため、「労働審判」を下される場合とは、すなわちその後の異議申立、訴訟への移行を視野に入れているケースでしょう。
「労働審判」に対して、会社側(使用者側)に不服がある場合、異議申立をすれば、「公開」が原則の裁判に移行します。
示された「調停案」に納得がいかないときは、「非公開」のまま解決するメリットと、訴訟によって結果が変更されるメリットを比較し、「異議申立をすべきかどうか。」を判断してください。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、労働審判が「非公開」であることと、起こってしまった労働トラブルをできる限り「非公開」のまま解決する方法について、弁護士が解説しました。
労働審判は、労働者保護のためにスピーディに解決するための制度ですが、「非公開」のまま労働トラブルを解決するという大きなメリットが会社側(使用者側)にもあります。
労働審判への対応にお困りの会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お早めにご相談ください。
「労働審判」の法律知識まとめ