労働審判を労働者から申し立てられてしまった場合には、裁判所から突然「呼出状」とともに労働審判申立書の写しが届きます。
労働審判や裁判を経験したことのない会社経営者はもちろん、経験したことがあっても、突然裁判所から呼出状が届くと、驚いて対応に苦慮することが通常でしょう。
労働審判の期日には、社長(代表者)が出頭することが原則ですが、弁護士を代理人として依頼し、代わりに出頭してもらうことも可能です。
今回は、労働審判の期日の決まり方と、いつ、誰が出頭すればよいのかについて、企業の労働問題を得意とする弁護士が解説します。
「労働審判」の法律知識まとめ
労働審判の第1回期日はいつ?
労働審判を申し立てられ、呼出状が届くと、そこには第1回期日が書かれています。
労働審判では、後程解説するとおり、「第1回期日が決定的に重要」ですので、社長(代表者)や担当となる取締役(役員)など、事情を知る方は、出頭(参加)のため予定を確保してください。
そこで、第1回期日がどのように決まるのか、また、延期、変更が可能なのかどうかについて、弁護士が解説します。
労働審判の第1回期日の決定方法
労働審判の第1回期日の決め方は、「労働審判規則」という、労働審判についてのルールを定めた規則に決められています。
労働審判規則によれば、労働審判の第1回期日は、労働審判が申し立てられてから「40日以内」の日に指定されることが原則です。
基本的に、裁判所の予定を優先して決められます。このとき、裁判所側でも、次のような事情が考慮されます。
- 労働審判を行う「労働審判廷」という部屋が利用可能か
- 裁判官の予定が空いているかどうか
参考
ただし「申し立てから40日以内」の第1回期日というのは、あくまでも「原則」であり、裁判所が多忙である場合や、予定調整が困難な場合などには、「例外」もあります。
特に、東京地方裁判所のように、労働審判が集中し、裁判所の予定調整が困難な裁判所では、第1回期日が申立てから40日以上後となることも少なくありません。
労働者側の都合は考慮してもらえる
労働審判の期日を決定するとき、労働者側は、労働審判を申し立てる側ですから、すでに弁護士がついていることも多いです。
労働審判の第1回期日を調整するとき、裁判所は、労働者、および、労働者の代理人となっている弁護士には予定確認をし、その予定を優先します。
これに対し、会社側(使用者側)で労働審判に対応するときには、すでに期日が決定されてから通知を受けますので、会社側や、会社側代理人となる弁護士の予定は、第1回期日決定のときには考慮されません。
労働審判の第1回期日は変更可能?
労働審判の場合、会社側(使用者側)からの期日の変更、延期は、基本的には「不可能」と考えて対応したほうがよいでしょう。
特に、労働審判は、他の訴訟と違って、「労働審判委員会」が3名で構成されるため、裁判所側でも日程調整が非常に大変です。一旦指定された期日を変更することには、裁判所も消極的です。
ただし、会社側(使用者側)としても、弁護士を同席させたほうがよく、労働問題に強い弁護士の予定がどうしても合わないなど、期日変更がやむを得ない場合があります。
先ほど解説したとおり、労働審判委員が任命された後の期日変更は困難であるため、期日変更、延期を会社側から申し出る場合、できるだけ早く行うべきです。
重要
期日変更、延期に、裁判所は非常に消極的であると解説しました。
労働審判では、当事者、関係者から事情聴取することが重要であるため、期日変更ができない場合には代表者のみでの出頭を検討することになります。
しかし、こちらの解説でも説明したとおり、会社側(使用者側)で労働審判に対応するときは、弁護士を依頼するメリットがことさら大きいといえます。
労働審判は第1回期日がとても重要!
労働審判は、原則として最大で「3回まで」の期日で解決します。
労働訴訟が、一般的に1年以上など、長い期間かかることが労働者へのハードルとなっていたところ、労働者保護のためにスピード解決を目指した制度であるためです。
3回まで開催される期日の中でも、第1回期日が決定的に重要であること、そしてその理由について、弁護士が解説します。
第1回期日で行われること
第1回期日で行われることについて、まず説明します。労働審判の第1回期日は、前半、後半にわかれています。
前半では、関係者や当事者に対して、裁判官が質問をする形で、事実関係の確認をします。そして、前半終了時に、労働審判委員会の協議を挟んで、後半に移ります。
労働審判の第1回期日の後半では、調停という当事者間のお話合いの手続が行われます。各当事者は、交互に入室して、裁判官と話しながら、話し合いでの解決(調停成立)を目指します。
第1回期日にかかる時間
第1回期日にかかる時間は、2時間~4時間程度です。
裁判所から期日が指定されるときには、通常、午前10時~、午後13時30分~、午後15時~という3枠に分かれていることが一般的です。
第1回期日が重要な理由
先ほど説明しました「第1回期日で行われること」のうち、前半部分の「事実関係の確認」については、第1回期日がすべてであり、第2回、第3回では行われないことが原則とされています。
したがって、会社側(使用者側)に有利な主張、反論、証拠に、第1回期日終了後に気づいても、最終判断(労働審判)にあまり大きな影響を与えられなくなってしまう可能性があるからです。
そのため、ご依頼をいただく場合、弁護士もまた、第1回期日にすべてを懸ける思いで準備を進めます。
第1回期日の方針・戦略(会社側)
ここまでお読みいただければ、第1回期日の重要性、事前準備の必要性は、十分にご理解いただけたのではないでしょうか。
そこで次に、第1回期日に参加(出頭)するにあたって、どのような方針、戦略をとると会社側(使用者側)に有利に進めることができるのかについて、弁護士が解説します。
和解(調停)が成立しそうなとき
申立書による労働者の主張、答弁書による会社側(使用者側)の反論から、調停(和解)成立の可能性が高いとわかる場合があります。
このときは、裁判所(労働審判委員会)もまた、調停(和解)成立に向けて、積極的に努力してくれます。結果、会社側(使用者側)の望む解決におさまることも多くなります。
したがって、ある程度の妥協(譲歩)が可能で、和解(調停)が成立しそうなときは、答弁書にそのように記載して第1回期日に参加しましょう。
徹底抗戦を希望するとき
では、調停(和解)成立を考えておらず、徹底抗戦を希望する場合はどうでしょうか。
労働審判で、会社側(使用者側)が徹底抗戦する場合、労働審判手続きでの解決は望めず、異議申し立てをして訴訟に移行することを考えることになります。
しかし、だからといって労働審判の第1回期日を欠席することはお勧めできません。第1回期日に欠席すると、会社側(使用者側)に不利な内容の労働審判が下されるおそれが高いからです。
「異議申立をして訴訟で争えばいい。」と思うかもしれませんが、次のようなデメリットは避けがたく、第1回期日に参加して、労働審判でも適切な反論を行うべきです。
第1回期日に欠席するデメリット
- 会社側(使用者側)に不利な労働審判が下される。
:訴訟で争うにしても、裁判官はプロですから、一度プロから不利な判断を下されることは、訴訟でも不利な心証の一因ともなりかねません。 - 労働者側の要求に対応しない不誠実な会社だというイメージがつく
:労働者側の要求が不当であれば対応しなくてもよいわけですが、そう考えるのであれば、会社側の反論をしっかり主張すべきです。
会社側の準備はできるだけ早く
最初の章で、原則として申立てから40日以内に第1回期日が行われるが、例外もあることを解説しました。
そして、東京地裁のように忙しい裁判所では、こちらの例外ケース、つまり、第1回期日開催までに40日以上の期間が空くことも少なくありません。
しかし、だからといって準備期間に余裕があると考えることはおすすめできません。労働審判期日前は、かなりハードスケジュールとお考えください。
労働審判の事前準備は、先ほど解説したとおり「第1回期日が決定的に重要」であることから、その第1回期日の下準備としての意味を持ちます。
第1回期日前の準備に要する時間、会社側(使用者側)の有利に進めるために収集しなければならない証拠は、依頼者が考えているよりもずっと多いといってよいでしょう。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、労働審判の第1回期日の決定方法と、変更、延期が可能かどうかについて、会社側(使用者側)の立場で解説しました。
会社経営者としては、突然裁判所から「呼出状」が届き、対応に悩むことでしょうが、あまり多くの時間をかけていては、会社側に有利に進めるための反論、証拠の準備期間が短くなってしまいます。
労働審判への対応にお困りの会社経営者の方は、企業の労働問題を得意とする弁護士に、お早目に法律相談ください。
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