訴訟で残業代請求をされ、対応を迫られている会社にとって、訴状に記載された「付加金」という大きな金額が、さぞ不安になることでしょう。
以前、こちらの解説で、「労働審判では付加金支払の命令はされない。」と解説しました。これに対し、訴訟では、悪質な残業代未払いに対しては、付加金支払を命じられるおそれがあります。
そのため、訴訟で残業代請求をされた会社経営者は、労働者側の付加金支払の請求に対して、適切に反論しなければなりません。
今回は、訴訟で付加金を請求されたときの、残業代請求に対する会社側(使用者側)の対応を、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。
「労働審判」の法律知識まとめ
付加金とは?
付加金とは、労働基準法に定められたもので、定められた一定の金銭支払いを会社が怠ったときに、会社に対する制裁(ペナルティ)として、未払い額と同額を限度として労働者が請求できる金銭のことです。
つまり、付加金の支払が命令される場合には、「未払い額と同額」の付加金が追加される結果、会社側(使用者側)が支払わなければならない金額が、最大で2倍になります。
「付加金」がどのようなものかは、「労働審判と付加金」についての解説で、詳しく説明しております。
労働審判では、付加金支払が命令されることはなく、訴訟にならない限り、特に不安視することはありません。
訴訟ではどのような場合に付加金を支払わなければならない?
労働審判では付加金を支払う必要がないのに対して、訴訟では、付加金の支払が裁判所から命令されることがあります。
「付加金」は、裁判所が命令した場合に、はじめて会社に対して支払義務が生じるものです。したがって、訴訟であっても、裁判所が支払を命令しないのであれば、会社は付加金を支払う必要はありません。
そこで、訴訟では、どのような場合に付加金を支払わなければならないのかについて、弁護士が解説します。
付加金命令は裁判所の裁量
訴訟(裁判)で、「付加金」の支払を命令するかどうかは、裁判所の裁量です。
つまり、労働者側が、残業代請求とともに付加金の支払を請求していたとしても、裁判所の判断によって、付加金は不要とすることができます。
これは、残業代請求自体が正当なものである場合であって、残業代は支払わなければならない場合であっても同様です。
一部の支払命令も可能
以上のとおり、「付加金」を支払うことを命令するかどうかは、裁判所が決めることができます。
そして、この付加金の支払命令は、「全額か0か」ではなく、一部の支払命令をすることもできるものとされています。
つまり、労働者側が請求する付加金のうち、一部だけを会社側が支払わなければならないという結果になる事例もあります。
付加金支払の基準を理解する
「付加金」を支払うかどうかは裁判所が決めることであるものの、どのような場合には裁判所が付加金の支払命令をするのか、いくらの支払命令をするのかは、法律上のルールはありません。
そこで、実務上、裁判例などを分析して、裁判所が行う付加金の支払命令の基準を理解する必要があります。付加金をどのような場合に支払わなければならないか、その基準を次の章で解説します。
「悪質」な未払の場合に「付加金」が発生
付加金支払の命令を、裁判所がどのような場合にするかの基準を知るためには、「付加金」がどのような性質の金銭かを理解しなければなりません。
つまり、「付加金」は、残業代などの会社による未払いが「悪質である場合」に、「制裁(ペナルティ)」として会社に支払が命じられるものです。
そのため、裁判所が付加金支払を命令するかどうかは、会社の行為(未払い)が「悪質であるかどうか。」によって変わります。
裁判所が、会社の行為(未払い)を「悪質である。」と判断するのは、例えば次のような場合です。
付加金が生じる「悪質な行為」の例
- 労働時間の把握を全く行っておらず、支払うべき残業代の算出が全くできない。
- タイムカード、就業規則など、残業代の算出に必要となる資料(証拠)を全く開示しない。
- 労働法上適切な残業代請求に対して、過剰に否定的な態度を取り続けた。
- 労働者側からの請求に対して全く交渉に応じず、誠実な態度を示さない。
注意ポイント
以上のように会社が労働者の請求に対して不誠実な態度をとり、未払いを続けることが「悪質である。」と評価され、付加金の支払を命じられるリスクがあることを理解してください。
とはいえ、労働者側の請求が明らかに不当であったり、不適切なほど乱暴な方法で交渉を挑んだりする場合には、会社側(使用者側)としても交渉を続けることが不可能なケースもあります。
そのため、労働者側の交渉を拒否してよいケースにあたるのか、それとも、適切な残業代請求であるのかは、労働法と裁判例についての十分な知識が必要となります。
付加金請求の訴訟への具体的な対応
ここまでお読みいただければ、訴訟において労働者から付加金を請求されることが、会社側(使用者側)にとって、大きなリスクとなることは十分ご理解いただけたのではないでしょうか。
訴訟における付加金請求に対して、適切な反論をせず、また、対応もしない場合には、支払額が「2倍」になるという大きな痛手を被るおそれがあります。そこで、付加金に対する具体的対応を、弁護士が解説します。
「悪質」と評価されないようにする
付加金の支払を命令するかどうかは、裁判所の裁量であり、裁判所が付加金支払を命じる場合のほうがむしろ例外であると解説しました。
そのため、労働法にしたがった金銭に、一部未払いがあったとしても、「悪質なブラック企業だ。」と裁判所から評価されないために、適切に対応する必要があります。
また、未払いであったとしても、会社側(使用者側)を有利にするような反論がある場合には、訴訟で反論を尽くし、付加金支払を命じられることを回避する必要があります。
判決までに方針を決める
裁判例によれば、付加金の支払命令は、判決確定よりも前に未払い残業代を支払えば、支払う必要はないものとされています。
具体的には、「事実審の終結時まで」、つまり、遅くとも「控訴審の終結まで」に、未払い残業代を支払えば、付加金を支払う必要はないものと判断されています。
そのため、会社側(使用者側)に不利な心証が裁判所から開示された場合には、遅くとも「控訴審の終結」までに、和解など、円満な解決をする方針を決めれば、付加金の支払を回避することができます。
判決までに支払をすれば、「未払い」の状態ではなくなるため、裁判所が付加金支払命令をすることがなくなるためです。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、労働者から、残業代請求や賃金請求などとともに、訴訟で付加金請求を受けてしまった会社が、注意しておくべき訴訟対応について、弁護士が解説しました。
付加金の支払を命令されるケースはむしろ例外的で、そこまで不安視する必要はないものの、悪質なケースやブラック企業では非常に大きなダメージとなります。
残業代の未払いトラブルでお困りの会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士へ、お気軽にご相談ください。
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