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新型コロナウイルスでおこる契約上の債務不履行と不可抗力条項

新型コロナウイルスに社員がかかってしまい、企業の運営を正常におこなえなくなってしまうことがあります。このような場合、すでに締結していた契約上の債務が、契約書どおりに履行できなくなってしまいます。これを「債務不履行」といいます。

自社では新型コロナウイルスの影響がない会社であっても、取引先や仕入れ先が影響を受けた結果、材料が通常どおりに入ってこず、企業運営を計画どおりに勧められないこともあります。新型コロナウイルスによる「契約の不履行(債務不履行)」の問題は連鎖します。

予定通りに製品を納品できなかったり、イベントを予定通り開催できなかったり、ホテルに宿泊させることができなくなったりと、「債務不履行」の問題はさまざまな業界で発生しています。

今回は、新型コロナウイルスで頻発する可能性が高い「契約上の債務不履行」に、契約書で定めた「不可抗力条項」を適用できるかどうかについて、弁護士が解説します。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

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新型コロナウイルスで起こる「契約トラブル」の責任

新型コロナウイルスの影響により契約書で決めた納期のとおりに納品ができないことがあります。このように、債務の履行期限に遅れてしまうことを「履行遅滞」といいます。一方で、イベント中止のように、そもそも契約書に決めた債務を実現することができない場合があります。これを「履行不能」といいます。

WHO(世界保健機構)のパンデミック宣言のあと、国をまたぐ移動には厳しい制限が課されることとなり、グローバルな取引は特に停止してしまいがちです。

履行遅滞も履行不能も、「債務不履行」という契約トラブルの一種です。

債務不履行がおこったとき、その責任が債務者にある場合、責任が債権者にある場合、どちらにも責任がない場合の3パターンがあります。契約上の責任がどちらかに存在する場合には、損害賠償責任など、契約上の責任を負うことになります。

しかし、どちらにも責任がない場合に、契約トラブルをどのように解決すべきなのか、というのが、今回解説する「不可抗力」の問題です。まさに、今起こっている新型コロナウイルスに起因する問題は、契約当事者のどちらのせいともいえないものが多いです。

新型コロナウイルスは「不可抗力」にあたるか

債務者にも債権者にも帰責事由がないときには、債務者は契約責任を負うことはありません。「帰責事由がない」とは、つまり、「契約当事者に、故意または過失がない」ということを意味しています。

このことを、契約書上でよく使われることばで「不可抗力」といいます。

そこで次に、「新型コロナウイルスの影響による債務不履行について、契約上の責任を負わなければならないのか」を検討するため、「新型コロナウイルスが『不可抗力』にあたるかどうか」を弁護士が解説します。

不可抗力とは

不可抗力とは、地震や洪水、地震、戦争などのように、外的な要因であり、契約当事者が注意をしていてもコントロールすることができない事情によって契約上の債務不履行がおこってしまうケースのことをいいます。

不可抗力は、単に契約当事者に「帰責事由がない(故意または過失がない)」というだけでなく、外的な要因による限定的なケースを指していう言葉です。

ただし、契約書に「不可抗力」と定められるとき、その意味は、「帰責事由がない(故意または過失がない)」ということと同じ意味で使われていることが多いです。

したがって、不可抗力条項で想定されているような不可抗力が存在する場合には、契約の当事者には帰責事由はなく、契約上の責任は生じないこととなります。

契約書に不可抗力条項がある場合

契約書では、このような不可抗力のケースを想定して「不可抗力条項」を定めておくことが多くあります。「不可抗力条項」では天災地変などのケースで、契約の履行責任や損害賠償責任などの一切の責任を負わないことを定めています。

契約書に「不可抗力条項」が定められている場合には、新型コロナウイルス時の責任を判断するにあたっては、まず、「新型コロナウイルス」が、「不可抗力条項」に列挙されている例にあてはまるかどうかを検討しなければなりません。

その上で、「不可抗力条項」に列挙された天災地変などにあたると判断される場合には、原則として免責されることとなります。契約の解釈が問題となります。

「不可抗力条項」には「その他、契約を継続しがたい事由」などの一般条項が置かれることがあります。感染症などの列挙がされていない場合、この一般条項にあたるかどうかを検討することになりますが、「一般条項」といえども他の列挙された事由と同程度に想定外で重大なものしか含まないと考えるべきです。

契約書に不可抗力条項がない場合

契約書に、不可抗力条項が定められていないときは、民法の一般原則にしたがって検討することとなります。この場合には、「新型コロナウイルス禍の影響が、不可抗力にあたるか」が問題となります。

しかし、この問題は、単に「新型コロナウイルスが不可抗力か」で一律に決まる問題ではなく、個別のケースに応じて結論がことなります。新型コロナウイルスによる債務不履行の内容について、次の要素の検討が必要となります。

  • 新型コロナウイルスにより社会全体が受けた影響の規模
  • 新型コロナウイルス禍の深刻さ
  • 新型コロナウイルスにより債務者地震が受けた影響の規模
  • 新型コロナウイルスと債務不履行との関係性
  • 回避措置を十分にとったかどうか

何らの努力すらせず「新型コロナウイルスの影響が大変だから、契約どおりに履行できなくてもしかたない」とあきらめて何もしないようでは、たとえ感染症の影響が社会的に甚大であっても、契約責任を追及される可能性があります。

契約締結当時に、新型コロナウイルスがこれほどまで流行することを予想して対策することは不可能なのは当然です。

しかし、少なくとも新型インフルエンザやSARS、MARSなどの過去の流行例に照らし、世界的な感染症の流行によって大きな影響を受ける種類の契約であれば、一定の対策をほどこしておくことは債務者の義務であると考えられます。

地震など過去の裁判例を参考に判断する

「新型コロナウイルスの影響による債務不履行が、不可抗力にあたるとして免責されるかどうか」を直接正面から判断した裁判例はまだありません。しかし、過去にも、大規模な地震などの影響による債務不履行で、不可抗力についての判断が裁判所においておこなわれてきました。

そのため、地震など、不可抗力の典型としてあげられる過去の裁判例が参考になります。

東京地裁平成26年10月8日判決(地震・責任否定)

東日本大震災により液状化被害を受けたとして、分譲住宅の買主が分譲会社(デベロッパー)に対して、地盤改良工事をおこなわなかった義務違反や説明義務違反に基づいて損害賠償責任を求めた事案です。

裁判所は、当時の技術的な知見からして、液状化被害の予見は困難であったと判断して、分譲会社(デベロッパー)の責任を否定しました。

東京地方裁判所平成17年4月27日判決(バブル崩壊・責任肯定)

退会にともないゴルフ会員権の預託金返還を求めた訴訟において、被告が、会則における「天変地変、著しい経済変動その他会社及び倶楽部の運営上やむを得ない事情があると認めた場合」にあたり預託金据置期間が延長されていると主張した事案です。

裁判所は、バブル経済の崩壊について「近来見られなかったものであるとはいえ、予測不可能な程度のものであったとまではいえず」として、据置期間の延長を認めませんでした。

名古屋地方裁判所平成15年1月22日判決(豪雨・責任否定)

東海豪雨による浸水被害を受けて、修理を請け負っていた自動車を水没させてしまったことについて、自動車修理業者が損害賠償請求をされた事案です

裁判所は、「早期に降雨の水位を把握し、浸水被害ないし水没の予見可能性があったとはいえず」として、自動車修理業者の自動車の保管および引き渡し債務の不履行の責任を否定しました。

東京地裁平成11年6月22日判決(地震・責任否定)

阪神淡路大震災により倉庫内の化学薬品が荷崩れを起こし、発火した火災により貨物が消失したケースでの損害賠償責任について判断した事案です。

裁判所は、倉庫会社にとって、阪神大震災の規模の地震を予見する可能性はなく、過失はないとして、倉庫会社の責任を否定しました。

地震などの例と新型コロナウイルスとの違い

以上の裁判例でも分かる通り、地震・洪水・台風などの天災地変の例において、「不可抗力」として責任を否定するかどうかは、「そのような事態を、あらかじめ予見することができたかどうか」という点が重要なポイントとなります。

新型コロナウイルスの感染拡大は、未曽有の事態といえます。

新型インフルエンザ、SARS、MARSなど、感染症が世界的に拡大したことは過去にもありますが、いずれのケースも、日本ではそれほど大きな影響を受けませんでした。この点で、今回の新型コロナウイルスの影響がどれほど大きいか、そして、業種・業態・契約類型ごとに、事前に予見して対策をしておくべきであったかどうかが、判断を分けるポイントとなります。

「不可抗力」でも免責されないケース

以上のとおり、地震と同じ判断枠組みで考えるとしたら、新型コロナウイルスによる甚大な影響についても、契約当初に予見して対策をすることは難しく、不可抗力として免責される可能性があります。

しかし、新型コロナウイルスの影響がとれほど苦しく、契約の履行が難しい状況に陥っていたとしても、不可抗力を理由としては免責されないケースがあります。

なお、すでに解説したとおり、新型コロナウイルスをはじめ感染症対策をまったくしておらず、もしくは、業種、業態、契約類型からしてこのような非常事態を予想して対策すべきような場合に、「不可抗力」にはあたらず、免責されない可能性があります。

不可抗力が立証できないケース

新型コロナウイルスによる債務不履行でも「不可抗力」で免責されないケースの1つ目は、「不可抗力が立証できない」ケースです。

新型コロナウイルス禍が不可抗力にあたり免責されるかどうかは、不可抗力条項があってもなくてもとても難しい問題であり、契約当事者同士で意見が異なる可能性があります。話し合いで解決できない場合、裁判に移行することとなります。

裁判所での審理は、「客観的証拠」が最重要視されます。証拠のない事実は認定されません。そして、「不可抗力なので責任がない」という主張をする側(債務者)が、その不可抗力について「立証責任」を負っています。

つまり、今回の解説を参考にして、各契約のケースに即してどのような意味で新型コロナウイルスが不可抗力にあたるのかを債務者側できちんと立証できなければ、裁判で不可抗力による免責を認めてもらうことはできません。

金銭債務の履行

新型コロナウイルスによる債務不履行でも「不可抗力」で免責されないケースの2つ目は、「金銭債務の履行」のケースです。

民法において、金銭債務は「不可抗力」を抗弁とすることができない、と定められているからです。天災事変などの影響を受けても、手元のお金がなくなることはないという考え方です。

民法409条(金銭債務の特則)

1. 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2. 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3. 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

つまり、新型コロナウイルスの影響を受けてどれほど資金繰りが苦しく、業績が悪化していても、金銭債務については履行の責任を免れることができないわけです。この点は、契約書でも、金銭の支払いを回避することはできないことが定められている例が多いです。

ただし、新型コロナウイルスの影響で経営状況が悪化し、資金繰りが厳しい会社は多くあります。新型コロナウイルスの影響で破産を検討するときは、次の解説も参考にしてください。

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因果関係がないケース

新型コロナウイルスによる債務不履行でも「不可抗力」で免責されないケースの3つ目は、「因果関係がない」ケースです。

たとえ「新型コロナウイルス」が「不可抗力条項」に該当するとしても、実際には、債務不履行には他の原因がある場合には、因果関係がないため、契約上の責任は免責されることはありません。

例えば、製品の納品が遅れたが、新型コロナウイルスの影響がなくても遅れていた場合には、その履行遅滞については契約上の責任を負うこととなります。

契約の解除

最後に、2020年3月31日までの契約に適用される改正前民法では、法律上は、契約の相手方当事者に帰責事由がない限り、契約を解除することはできません。

そのため、いずれの当事者にも責任なく、つまり、不可抗力で契約を履行できない状況であっても、民法上は、契約を解除することはできません。この場合、合意解約以外に、契約をなくす手がありませんが、合意解約の際には条件面で話し合いが難航する可能性があります。

契約に拘束されつづけると、責任は負わないとしても、次の取引先を探すことが難しくなってしまいます。

このような不都合を回避するため、一般的には契約書において一定の要件のもとに解約をすることができるという定めを設けていることが多いです。この場合には、その特約条項にしたがって解約することができます。

なお、「いずれの当事者にも帰責事由がないとき、特約がない限り契約の解除ができない」という問題点は、次に解説するとおり、2020年4月1日に施行された改正民法で修正されています。

改正民法の影響(2020年4月1日施行)

近時、民法の債権法(契約法)部分について、歴史的な大改正がされました。この改正民法は、2020年4月1日に施行されており、同日以降に締結された契約書に適用されます。そのため、2020年3月31日までに締結された契約には改正前の民法、2020年4月1日以降に締結された契約には改正後の民法が適用されます。

改正民法のもとでも、「帰責事由がない(故意または過失がない)場合には、損害賠償責任などの一切の責任を負わない」という点では結論は同じです。

ただし、改正民法では、不可抗力によって債務不履行となってしまったときには、債務者は(その責任が債権者になかったとしても)契約を解除して、契約の履行責任からのがれることができることとされています。

「事情変更の原則」が適用されるか

「事情変更の原則」とは、契約を締結した当時と大きく事情が変更されており、契約どおりでは当事者の公平に反する結果となるときに、契約の解除や契約条件の変更を認めるルールのことです。「信義則」によって例外的に認められる取扱いです。

契約した当時、新型コロナウイルスによるこれほど大きな影響を想定していなかったことを理由に、「事情変更の原則」を適用して契約を解除したり、契約条件の変更を申し出たりすることができるかが問題となります。

ただし、「事情変更の原則」は例外的な救済措置です。そのため、まずは契約書に「不可抗力条項」を記載しておくべきです。

この点も、「不可抗力条項」で検討したのと同様、当初から新型コロナウイルスを予想して織り込むことは難しいですが、過去の新型インフルエンザ、SARS、MARSの流行例に照らした対策をとっておいてしかるべきです。

特に、国外から仕入れをおこなうなどのグローバルな取引の場合、感染症が世界規模で流行した場合には一定の影響を受けることが予想されるため、過去の例にしたがった対策すらしていない状態では、「不可抗力条項」はもちろん「事情変更の原則」も利用することができないと考えられます。

これに対して、過去の新型インフルエンザ、SARS、MARSより、新型コロナウイルスは猛威を振るっています。過去の例にのっとった対策をおこなっていたものの、予想外に新型コロナウイルスの影響が大きかったため契約の履行ができないときは、「事情変更の原則」を利用できる可能性があります。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、新型コロナウイルスの甚大な影響により、契約どおりに債務を履行できないときの対応方法について弁護士が解説しました。

契約どおりに債務を履行できないことを「債務不履行」といいます。今回の解説は、取引先に材料を納品できない、製品の製造が遅れているといったメーカーのトラブルから、イベントが開催できない、ホテルに宿泊できないなど、さまざまな業界・分野の「債務不履行」にあてはめることができます。

ただし、新型コロナウイルスに責任転嫁し、対策を一切おこなわない状態では、契約責任が免責されないおそれがあります。

新型コロナウイルスの影響により契約トラブルが発生するおそれのある会社は、ぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士にご相談ください。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

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