★ お問い合わせはこちら

新型コロナウイルスで子どもが休校となった社員への会社側の対応

新型コロナウイルスの感染拡大で、学校の臨時休校が全国で相次いでいます。

そのような中、子どものいる家庭では、仕事をしながら子どもの面倒を見なければならず、育児の手間が増大しています。特に、共働き世帯の親にとっては一大事です。

新型コロナウイルス禍の副産物としてうまれた、子どもの面倒を見るために会社を休みたいと思う社員に対する対応について、会社側(企業側)はどのような対策をとったらよいのでしょうか。

今回は、会社側(企業側)が、新型コロナウイルスの影響によって育児の手間が増大している社員に対しておこなうべき、休暇をとらせるなどの適切な対応について、企業法務に詳しい弁護士が解説します。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

目次(クリックで移動)

年次有給休暇の取得は強制できない

年次有給休暇(年休)とは、「心身の疲労回復を目的」として、ゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、労働基準法(労基法)で定められている法定休暇です。

年次有給休暇(年休)は、労働者のための権利として保障された休暇であるため、会社側(企業側)が強制的に取得させることはできません。また、社員が休みを取ったり、欠勤をしたりしたときにも、会社の判断でこれに年次有給休暇を一方的に充当することもできません。

今回の新型コロナウイルス禍の例のように、会社が休業をせざるをえないこともありますが、この休業にも、会社は年次有給休暇(年休)を一方的に充当することは禁止されています。

そのため、子どもの面倒をみるために休暇申請をしたり、新型コロナウイルスによる休校措置によって育児の手間が増加したりした社員に対してであっても、年次有給休暇を取得するよう強制することはできないこととなります。

「育児の必要があるなら、有給休暇をとって処理するように」「会社が忙しいのだから、休むなら有給休暇を減らす」といった対応は、違法な対応であり、「ブラック企業」との評価を受けて企業の信用を低下させてしまいかねません。

あわせて読みたい
「有給休暇取得の義務化」への会社側の対応方法【働き方改革関連法】 平成30年(2018年)6月29日、国会において「働き方改革関連法」が可決・成立しました。「働き方改革関連法」の成立に伴い、有給休暇取得が義務化されることをご存知でし...

子どもの面倒を見るために休む社員への対応

では、会社側(企業側)が、年次有給休暇(年休)の取得を強制できないとして、子どもの面倒を見るために休みをとろうとする社員に対する適切な対応について、弁護士が解説します。

新型コロナウイルスの影響による一斉休校は、誰のせいでもありません。「働き方改革」においても、働き方の多様化により多様な人材の活用が叫ばれているように、育児を抱えている社員に対して可能な限りの配慮をしなければ、優秀な社員の離職を招いてしまうおそれもあります。

欠勤扱いとする

新型コロナウイルスによる休校措置で、育児が必要な社員への対応方法の1つ目が「欠勤扱い」とする方法です。

年次有給休暇のように、法律で認められる休暇以外で社員が休むとすれば、それは社員が個人の事情で休んだことを意味します。このような場合、育児や介護のような理由があれど、会社としては「欠勤扱い」とすることになります。

通常時に、欠勤扱いについて「欠勤控除」をしている場合には、休んだ日数分の賃金を支払わないこととなります。

ただし、新型コロナウイルスで混乱のさなかにある現在の情勢を踏まえると、社員に断りなく欠勤扱いとすることはトラブルの原因となる可能性があります。欠勤扱いとする場合にも、しっかり理由を説明して理解を得るようにしてください。

年次有給休暇の取得をうながす

新型コロナウイルスによる休校措置で、育児が必要な社員への対応方法の2つ目が「年次有給休暇の取得をうながす」方法です。

冒頭で解説したとおり、会社は社員に対して年次有給休暇の取得を「強制」することはできません。しかし、「一斉休校措置にもとづく育児の必要」という強い必要性のある社員に対して、年次有給休暇を取得するかどうかを確認し、できるだけその取得を「うながす」ことは強制には当たりません。

社員側としても、単に休んだり特別扱いされたりするより、権利として認められている年次有給休暇をつかったほうが、同僚の目が気にならず、後ろめたい思いをしないで済むメリットもあります。

しかし、あくまでも「推奨」でなければならず、社員に「強制されている」と感じさせないよう、十分な注意が必要です。

特別休暇を付与する

新型コロナウイルスによる休校措置で、育児が必要な社員への対応方法の3つ目が「特別休暇を付与する」方法です。

特別休暇とは、法律にさだめられた休暇ではなく、会社が独自に決める休暇のことです。例えば、冠婚葬祭のときに取得できる慶弔休暇、配偶者が出産したときに休暇を取れる出産休暇(法定の育休・産休を超えるもの)、夏期や年末年始の一斉休暇、天災などによるやむを得ない休暇などが特別休暇の例です。

新型コロナウイルスによる休校措置で、育児のためにやむをえず休まざるを得ない社員に、特別休暇をあたえる際には、次のことを就業規則に定めておいてください。緊急の対応で、就業規則を変更できない場合には、社員との間で合意書を交わすこともできます。

  • 特別休暇を取得できる理由
  • 特別休暇を取得できる日数の上限
  • 特別休暇の申請方法・申請期限
  • 特別休暇に賃金が支払われるかどうか

育児休暇を取得させる

育児の負担が重い社員に対する会社側(企業側)の適切な対応の4つ目が「育児休暇を取得させる」方法です。

一般的に、日本の育児休暇の取得率は、統計上かなり低いです。これは、会社や他の同僚のことを気づかって、育児休暇をとらないで済ませたり、とったとしても短めにしたりする人が多いためです。

しかし、本来であれば、育児休暇は、女性(母親)だけでなく男性(父親)もとれる制度となっています。今回の新型コロナウイルスによる休校措置の影響で育児の負担が大きい人で、まだ育児休暇をとっておらず、取得要件を満たす人がいる場合には、積極的に育児休暇を取得させることを検討してください。

休業する

最後に、会社側(企業側)の適切な対応の5つ目が「休業する」方法です。

社員の多くが育児の負担をかかえる女性である場合など、今回のように一斉休校措置がとられ、さらに延長されたりすると、もはや会社を存続することが難しくなってしまう会社もあります。

ケースによっては、個別に年次有給休暇や特別休暇で対応するような「その場しのぎ」より、いったん会社を休業し、落ち着いてから再開することも検討の余地があります。

また、休業までいかなかったとしても、在宅勤務・リモートワークに切り替えることは、育児に対する配慮というだけでなく、自粛の要請をしている国の方針にも沿った対応です。

あわせて読みたい
新型コロナウイルスによる休業でも賃金・休業手当の支払いは必要? 新型コロナウイルスで緊急事態宣言が出され、業績が悪化している会社が多いかと思います。先行きがみえず不安な中、とくに心配となるのが従業員の賃金についてのことで...

休校を理由とした休暇には「助成金」が活用できる

新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、学校が臨時休校となった場合に、その学校に通う子どもの保護者である社員の休職にともなう所得の減少に対応するための助成金が創設されました。

それが、厚生労働省の管轄する「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」です。

この助成金は、正規雇用であると非正規雇用であるとを問わず利用でき、休校措置に対応する保護者である社員に対して、有給の休暇(年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対して支給されます。

少しでも会社の負担を減らしながら、育児の負担の重い社員に配慮するため、助成金の活用方法を弁護士が解説します。

小学校休業等対応助成金の要件

「小学校休業等対応助成金」は、2020年2月27日から6月30日までの間に、子どもの面倒を保護者として行うことが必要となった従業員に対し、有給(賃金全額支給)の休暇(労基法上の年次有給休暇を除きます)を取得させた事業主を対象とするものです。

具体的な支給要件は、次の4つです。

① 雇用する労働者の申し出により、令和2年2月27日から同年3月31日までの間に、以下のいずれかに該当する有給休暇を取得させたこと。
 ア 新型コロナウイルス感染症に関する対応として臨時休業等をした小学校等に通う子どもの世話を保護者として行うための有給休暇
 イ 新型コロナウイルスに感染した又は風邪症状など感染した恐れのある、小学校等に通う子どもの世話を保護者として行うための有給休暇
② ①の有給休暇は、労基法第39条の規定による年次有給休暇として与えられるものではないこと。
③ ①の有給休暇は、年次有給休暇の場合と同等の賃金が支払われるものであること。
④ ①の有給休暇を取得した労働者が、申請日時点において1日以上は勤務したことのある労働者であること。

「小学校等」には、「小学校」だけでなく、義務教育学校の前期課程、各種学校、特別支援学校、放課後児童クラブ、放課後等デイサービス、幼稚園、保育所、認定こども園、認可外保育施設、家庭的保育事業等、子どもの一時的な預かりなどを行う事業、障害児の通所支援を行う施設などが含まれることとされています。

対象となる有給の休暇の範囲は広く、1日単位の休暇だけでなく、半日単位、時間単位の休暇も対象となります。就業規則に定めておくことが望ましいですが、就業規則が整備されていなくても、要件を満たす休暇であれば、助成金の申請ができます。

社員に対しては、年次有給休暇を取得した場合に支払う賃金の額をすべて支払うことが必要となります。ただし、助成金の支給上限は、1日あたり8330円です。

小学校休業等対応助成金の活用方法

以上のとおり「小学校休業等対応助成金」をうまく活用して、子どもの面倒をみなければならなくなった社員の休暇を上手に取得させることができます。

会社が、助成金を利用するためには、就業規則や雇用契約書を整備する必要があります。

そこで、どのように手続きを進めていくかについて弁護士が解説します。なお、助成金の取得には、就業規則など会社の規程の整備のほか、必要書類が複雑で、手間がかかることがあります。専門家の助けを借りることで、手続きの手間を省くことができます。

step
1
就業規則の作成・見直し

まず、「小学校休業等対応助成金」を申請するためには、社員に有給の休暇を与える必要があります。これは、年次有給休暇とは別の特別休暇でなければなりません。

「特別休暇を与える方法」でも解説したとおり、特別休暇を与えるためには、会社の制度として就業規則や雇用契約書にさだめておく必要があります。就業規則があっても、新型コロナウイルスのような有事に対応した内容でない場合には、見直し・改訂がお勧めです。

特別休暇は、法律に定められた以上の休暇であるため、義務ではありませんし、法律上のルールはありません。ただし、社員の健康保持、また、現在ですと特に新型コロナウイルス感染拡大の防止という観点から、状況に合わせた適切な制度を導入する必要があります。

step
2
社員への通知・窓口の設置

就業規則に、特別休暇の制度をもうけたら、その内容を社員に周知します。

あわせて、特別休暇の取得方法、取得期限、取得の窓口なども社員に伝えます。利用しやすい制度でなければ、緊急事態には用をなしません。会社が積極的に特別休暇の取得を推奨することによって、社員としても後ろめたい気持ちがなくなり、休暇申請をおこなうハードルが下がります。

社員が特別休暇を取得したら、年次有給休暇と同様に計算し、賃金を全額支給します。「全額支給」は「小学校休業等対応助成金」の要件ともなっていますので、「一部支給」としないよう注意が必要です。

step
3
助成金の申請

支給要件を満たしたら、助成金の申請をします。あわせて、助成金申請をしたことを社員に周知することがお勧めです。

「小学校休業等対応助成金」によって、自分の給与の一部をまかなうことができると知ることで、子どもの面倒を見なければならないが働かないと生活が苦しいと感じている社員が、その悩みや不安を解消することができます。

このことは、ひいては愛社精神を高めることとなり、労働の生産性向上にもつながります。社員の会社に対するイメージがアップし、今後も継続的に就労したいという意欲を維持させる効果も期待できます。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、新型コロナウイルスで子どもが臨時休校となった社員への、会社側(企業側)の適切な対応について弁護士が解説しました。

会社側からの年次有給休暇の強制取得は認められません。会社側が、社員の意思を尊重しながら、育児の負担に対して配慮をするような休暇取得を実現できるかが、今後の社員のモチベーションに大きくかかわってきます。新型コロナウイルス禍を一致団結して乗り切り、会社経営を継続するためにも、緊急時の対応がとても重要です。

新型コロナウイルスに関する会社側(企業側)の対応でお悩みの会社は、ぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士のアドバイスをお聞きください。

「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ

目次(クリックで移動)