新型コロナウイルスの影響を受けて売り上げが激減し、経営が立ち行かない会社にとって、「人件費の負担」がとても重くのしかかります。このようなとき、社員の解雇・雇止めを検討することとなります。
しかし、新型コロナウイルス感染症によって苦しい思いをしているのは、会社だけではありません。そのため、社員の解雇・雇止めは、簡単にはおこなえません。
会社の業績悪化を理由とする解雇を「整理解雇(いわゆる「リストラ」)」といいます。
やむを得ず、社員に辞めてもらうしか会社を存続させる道がのこされていないとき、解雇・雇止めを進めるときの注意点について、企業法務に詳しい弁護士が解説します。
「新型コロナウイルスと企業法務」まとめ
新型コロナウイルスを理由とする解雇の有効性
新型コロナウイルスを理由として、正社員などの雇用期間の定めのない社員を「解雇」するとき、解雇についての厳しい制限を理解する必要があります。
解雇には「解雇権濫用法理」という判例ルールによる制約があり「客観的に合理的な理由」がなく「社会的な相当性」のない解雇は違法、無効です。特に、このたびの新型コロナウイルスによる業績悪化を理由とする場合、解雇回避の努力をつくしたかどうかが重要となります。
解雇回避の努力は、自社でできる経営努力だけでなく、国による新型コロナウイルスに関する特別の支援策などを踏まえ、適切なものでなければなりません。
整理解雇の4要件
労働契約法において、無期雇用社員の解雇は厳しく制限されています。具体的には、「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」であることが要件とされています。
これらの要件を満たさない解雇は、解雇権を濫用したものとして違法、無効とされています。解雇をされた社員が、労働審判や裁判で争ってきたときには、会社側が敗訴し、復職させるとともに解雇期間中の賃金を支払わされることとなります。
中でも、労働者側に非がなく、会社の業績などを理由とした「整理解雇」は、次の4つの要件を満たすことが必要となります。これを「整理解雇の4要件」といいます。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力義務
- 人員選定の合理性
- 手続きの妥当性
特に、新型コロナウイルスによる業績悪化を理由とする場合、人員削減の必要性は認められることが多いでしょうが、解雇回避の努力義務をつくさず、「コロナだから」と責任逃れをして解雇をしてしまっているケースがあります。
解雇前に、回避の努力を尽くすよう、次の項目の解説を検討してください。
解雇前に検討すべき回避の努力
有効かつ適法に解雇をするためには、解雇前に、回避の努力を尽くしたかどうかの検討が必要であると説明しました。新型コロナウイルスの被害が甚大なとき、人員整理の前に検討していただきたい努力は、次のとおりです。
- 余剰経費の削減
- 余剰資産の売却
- 役員報酬の削減
- 新規採用の見送り(内定取消し)
- 新規投資の凍結
- 無駄な残業代の削減
- 一時帰休
- 賃金減額・賞与のカット
- 在宅勤務・リモートワークの活用
- 一部社員の休業と雇用調整助成金の申請
「一時帰休」とは、売上があがらず仕事がないときに、社員に労働をさせず、休業させることをいいます。在宅勤務、リモートワークが推奨されていますが、接客業や店舗事業など、出社しなければ仕事がそもそも発生しない業態で有効です。
休業をさせるときには、「使用者の責に帰すべき事由」による休業だと休業手当(平均賃金の6割以上)が必要となりますが、新型コロナウイルスの特例が多く出ている雇用調整助成金によってある程度まかなうことができます。
事業を完全に廃止する場合は、解雇可能
一方で、資金繰りをあきらめ、会社を倒産させる道を選択することは、会社の経営者が自由に選べる選択肢です。法人破産・会社破産を決断した場合には、会社の法人格自体が消滅しますので、社員を全員解雇することができます。
事業の廃止にともなう解雇は、事業縮小にともなう人員削減とはことなり、「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上の相当性」も存在するからです。
この場合には、雇用調整助成金や融資・貸付など、会社を延命するための施策を打たなければならないわけでもありません。飲食店・観光業・ホテル業などの業種では、いったん会社の廃業を決断する経営者も増えています。
ただし、事業を完全に廃止して全従業員を解雇する場合であっても、「なぜ事業廃止を選択したのか」「なぜ解雇するのか」を社員に説明し、納得を得る手続きを踏むことがお勧めです。これまで貢献してきてくれた社員に対しての誠意が重要です。
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新型コロナウイルスを理由とする雇止めの有効性
雇用期間の定めのある社員を、雇用期間の満了時にこれ以上の契約更新をおこなわず、雇用契約(労働契約)を終了させることを「雇止め」といいます。
例えば、「雇用期間:20XX年XX月XX日から1年間」と雇用契約書(労働契約書)にさだめて雇用した契約社員を、期間満了時に契約更新しないこととした場合のことです。雇用期間の定めのある社員は、有期契約社員、アルバイト社員、パート社員などの非正規社員が典型例です。
雇用期間の定めがある場合、契約は更新されないのが原則ですが、一定の場合には労働者の期待が保護され、会社による「雇止め」は制限されます。
雇用期間満了による雇止め
雇用期間の定めがある社員は、主に、その期間の多忙さなどを理由に、短期間を前提として雇用していることも多くあります。そのため、原則として、期間満了によって雇用契約は終了します。
しかし、実際には、労働者が契約は更新されるものと期待しており、その期待を法的に保護すべき場合があります。そのため、次のような期待があるケースでは、「解雇権濫用法理」と同様の制約がはたらき、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性のない「雇止め」は無効とされます。
- 雇用期間の定めのない労働契約と実質的に同視できる場合
- 契約を更新することの合理的な期待がある場合
→上記2つのケースでは、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、雇止めは無効となります。
労働契約法19条(有期労働契約の更新等)有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
そして、実質的に無期契約と同視されるケースであるかどうか、労働者に合理的な期待が生じているかどうかは、個別のケースに応じた判断が必要となります。考慮要素は、具体的には次のような事情です。
- 有期契約の更新の回数・通算期間
- 更新手続きが厳格に行わr3ているかどうか
- 担当する職務が一時的なものか、恒常的なものか
- 会社側(企業側)に雇用継続を期待させる言動があったかどうか
これらの事情をもとに、多数回の更新が繰り返され、更新ごとの面談・締結などがずさんであり、恒常的な業務に従事していたような場合、たとえ有期契約の労働者であっても、雇止めが困難な場合があります。
ただし、これらの事情がある場合には「雇止め」にも「解雇」と同様の制限が加わりますが、雇止めしてはいけないわけではありません。
新型コロナウイルスによる影響が顕著であり、前半部分で解説したとおり「整理解雇の4要件」を満たすような状況に会社がおかれた場合には、雇止めを有効におこなうことができます。
雇用期間途中の解雇
雇用期間の定めのある社員の場合には、雇用期間途中で解雇することにはとても厳しい制約があります。契約社員などの非正規社員の場合、「雇用期間を定めた」といことは、問題ない限りその期間中は勤めることができる、という期待が生まれるからです。
そのため、労働契約法でも次のとおり「やむを得ない事情」がない限り、契約期間中の解雇は無効とされています。これは、無期の正社員の解雇より厳しい制限です。
労働契約法17条1項(契約期間中の解雇等)1. 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
今回の新型コロナウイルス禍を受けて、有期契約社員の期間途中の解雇をする場合にも、「やむを得ない事由」があるかどうか、身長な検討が必要となります。
具体的には、新型コロナウイルスの終息の見通しはいまだ見えていないものの、「契約期間中まで雇用し続けておくことが、本当に難しいのか」という観点で判断をしていただくこととなります。
解雇・雇止めの前に「退職勧奨」を行うべき
新型コロナウイルスの影響で店舗を閉鎖せざるを得ないなど、人件費削減のために解雇・雇止めがひっ迫している状況であっても、その前に、まずは退職勧奨をおこなうべきです。
退職勧奨は、社員に対して状況を説明し、「自主退職をうながす」行為のことです。会社の現状を理解してもらい、このままでは厳しいことを伝え、決して解雇や退職の「強要」であると誤解されないように進めることが、トラブル回避に有益です。
退職勧奨を先におこなう理由
テレワークや在宅勤務への切り替え、政府の出す支援策の活用をおこなっても人員削減の必要があるとき、「社員に会社をやめてもらう」という結論が同じであっても、解雇と退職勧奨とでは、大きく異なります。
解雇には、今回解説したとおり「解雇権濫用法理」による厳しい制限があるのに対して、社員が真意から退職の意思を示せば、「退職勧奨」は自由だからです。
いざ、労使トラブルとあって労働審判、訴訟、団体交渉などに発展する際の紛争コストを考えても、退職勧奨をきちんとおこなうべきです。
退職勧奨の結果、社員が自主退職を選択する場合には、そのことを記載した「退職合意書」を作成します。新型コロナウイルスを理由としたやむを得ない措置である場合にはその旨や、辞めていく社員に対する補償などについて記載することも検討してください。
退職勧奨をおこなうときの注意点
退職勧奨をおこなうときいには「社員の納得感」が重要となります。新型コロナウイルスへの意識は人によって差があります。会社がどれほど危機的な状況なのか、客観的な数値をもって説明するのがよいでしょう。
そして、会社からの一方的な通告を意味する「解雇」「退職強要」ではなく、あくまでも「自主退職のお願い」であることを丁寧に説明します。
退職勧奨を進めていくと社員から「解雇にしてほしい」と要望されることがあります。これは、雇用保険の失業手当で「会社都合」のほうが有利だということが理由です。しかし、事実に反して「解雇」とすると、のちにトラブルとなるおそれがあります。
この場合には、退職勧奨であっても離職票の記載を「会社都合」とすることができ、支給日数・支給開始日について労働者側に有利な取り扱いとすることが可能であることを、労働者に対して説明し、理解を求めるようにしてください。
「企業法務」は、弁護士にお任せください!
今回は、新型コロナウイルスの影響で売上が激減したとき、人件費削減のために解雇・雇止めを進めることができるかどうかについて、弁護士が解説しました。
業績悪化を原因とする解雇、いわゆる整理解雇(リストラ)のケースでも、緊急の必要性がある場合であっても、解雇回避をしっかりと尽くしているかが重要となります。特に、新型コロナウイルスの影響で業績が悪化している場合、国は企業を継続させるための施策を実行しています。
事業縮小、業態変更、休業、廃業などさまざまな選択肢があるなか、どのような経営がよいかは、法的な観点、経営的な視点の双方から判断しなければなりません。
新型コロナウイルスへの会社側(企業側)の対応にお悩みの会社は、ぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士のアドバイスをお聞きください。
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